【オランダ/ハーグ】「子どもにも気持ちあるよ?」と7歳の娘に言われて

先日、ひょんなことから「子どもにも気持ちってあるよ?大人ってそれ聞いてる?」と娘から言われることがありました。

ダンスを辞めていったクラスメイト

娘は約2年、週1回のキッズダンスを続けています。このダンス、娘と同じクラスにいるウクライナ出身のサーシャ(仮名)も同じように通っていたのですが、この先日やめることになりました。よくよく聞いてみると「辞めたい」と彼女が言った訳ではなく、保護者がダンスよりもテニスをさせたい、スポーツ競技を経験して欲しいという意向で辞めたそうです。

毎週一緒にダンスに行くことを楽しみにしていた娘は、サーシャが辞めるという知らせを聞いて「一緒じゃないなら行きたくない!辞める!!」と泣きながら言っていました。…というのも、学年が上がることでクラス編成が少し変わるので、新しい環境にはサーシャと一緒に入りたかったそうです。実は、次の発表会(2023年)に合わせて私の両親が航空券を押さえているので、できれば辞めるのはやめてほしい(笑)と勝手ながら思っていましたが、「(サーシャ抜きで)何回か行って、やっぱり1人は嫌だと思ったらやめようか」と娘に話したところ、彼女が納得したのでとりあえず数回は続けてみることにしました。

ダンスに戻りたいと言っているサーシャ

メンバーも変わるので、最初のレッスンはちょっと緊張していた娘ですが、いざ始まってみるとやっぱりダンスは楽しいようで(笑)、「サーシャは辞めちゃったけど、私は続ける」と言い、今でも続けています。

その一方で、娘がサーシャと学校で話をすると、彼女は「ダンスに戻りたいな〜。テニスは楽しくない」と言っているとのこと。「サーシャはまだダンスやりたいって。何でダンス出来ひんのかな?やりたいのに」と娘は不思議そうに言っていました。確かにダンスとテニスは全く同じ時間帯で、サーシャがやりたいのはダンスなのに、何故できないのか?という娘の疑問は理解できます。

「子どもにも気持ちあるんやけど、大人って聞いてる?」

その後、一度娘を誘って別の音楽系の習い事の見学に行きました。別にやりたくなければ始めなくても良いのですが、「やりたいかも」か「やりたくないな」くらいは機会があってこそ判断できるのでは?と思って彼女に聞くと、「いいよ!」と言ったので連れて行きました。

ただ、結果は「やりたくない」とのこと。笑
帰宅後、夕食を食べながら「そっか〜。ダンスで踊るの好きやから何か楽器するのもちょっとは好きやったりするかなと思ったんやけど、好きじゃないか〜…」と残念そうに言った私に、

「子どもだってこれやりたいとか、あれやりたくないとかあるよ。大人がこれやりなさいとかやめなさいとか言って勝手に決めるのはあかんと思う。子どもにも気持ちあるよ。大人ってそれ聞いてへん時ある。お母さんも勝手に何か決められたらいややろ?子どもも同じやで。」

と、何か急にはっきり言われたのでした。(どかーん)「お母さんそんなつもりじゃなかったんだよ…」なんて言いながらよくよく話を聞いてみると、どうやらサーシャのことを思っているということでした。「いつも私にダンスいいなって言ってくるねん。私もしたいって。ダンスさせてあげたら良いのに。何でサーシャのママはさせてあげへんの?」

なるほど…こんな風にして親のいないところで子どもたちは話しているんだな〜と思いました。

大人の「良かれと思って」は子どもにとっては迷惑なことも

サーシャのママはもちろん「ダンスなんて無駄だ!やめてしまえ!」と思ってサーシャがダンスを続けることを断念した訳ではありません。「ダンスよりもスポーツ競技に親しんで欲しい」そう思って習い事を変えました。

そして、きっとサーシャもその説明を受けて「まぁそれも良いかな」と思ってテニスを始めたことでしょう。でも、いざ始めてみたら「やっぱりダンスの方が楽しいや」と思ったのです。でも、保護者の立場からすると「こっち(テニス)をやって欲しい」という気持ちが強く、サーシャも“親のそれ”を密かに感じているのかもしれません。だからこそ、心の内を娘に打ち明けているのかもしれません。「親の心子知らず」とまではいかないにせよ、サーシャの気持ちがテニスにはないことは明らかだと友だち代表の娘は言います。

「テニスは楽しんでる?」とママに聞いてみた

ある日、サーシャのママと顔を合わせ、「サーシャはテニス楽しんでる?」と聞いてみました。するとママはちょっと曇り顔で「それがあんまり楽しくなさそうかなと思ってるの…彼女は運動能力が高い方だから、競技スポーツをやって欲しいなと思うんだけど、実際のところ、毎週水曜はダンスに通っていた時ほど楽しそうではなくてね」と教えてくれました。

「そっか〜。一度サーシャにどうしたいか聞いてみたら良いかもね。彼女はきっと自分がどうしたいかを知っている子だと思うけど😊」と言ってみました。するとママは「うーん。あの子がどうしたいかか…ダンスに戻りたいって言いそうね😅」と、子どもの本当の気持ちに耳を傾けるのが少し怖いように見えました。きっと彼女も「サーシャがダンスに戻りたいと思っている」ということにどこかで気づいているのでしょう。

「ダンスに戻ることにしたわ」

そして先週、サーシャのママから連絡があり「やっぱりダンスに戻ることにしたわ!前と同じスケジュールでやってるよね?」と連絡がきました。それを娘に伝えると「よかった!サーシャ、ダンス続けたいってずっと言ってたから!」と喜んでいました。そして私も嬉しくなりました。

「子どもにも気持ちあるよ、でも大人ってそれ聞いてる?」

大人は子どもを愛するあまり「こうするのがあなたのためだ」「いつかこの価値がわかる」という言い回しを使って、子どもの本当の気持ちよりも大人の価値観を優先してしまっていることがあるのかもしれません。そして、子どもは「自分のことを愛しているからそう言ってくれるんだ」と思い…というか、子どもなりに大人を気遣い、本当の自分の気持ちを言わないようにすることもあるのではないでしょうか。そんなことを考えました。

ただ、実は、高校生にもなると自分の気持ちや意見よりも大人の言うことを優先するようになる子もいるんだな…ということを高校で働いていた時にひしひしと感じていました。特に大切な決断をする時に親の意向を汲んで、「言っても無駄なんで」とか「両親がそう言うならそうしておいた方がめんどくさくないんで」というように、半ば諦めのような考え方を作る生徒も少なくありませんでした。それは必ずしも悪いことではないかもしれません。

でも、彼らの話を詳しく聞いてみると、それは小さい頃からそうなんです、最後は親が決めるようになっているんです。と教えてくれるのです。子どもは「見えない未来」を大人から脅しのように使われると、「そうなのか」と自分の気持ちを押し殺して頷くようになることもあるんだということを、日本の高校生たちは時に教えてくれました。

「子どもの本当の声の在処(ありか)」を知っているか?

娘が私たちに、
「子どもにも気持ちがある訳で、それを無視するのは間違いだよ」
と伝えてくれたことを考えると、ひょっとすると私たちの子育てを通して娘もそう感じる節があったのかもしれません。

娘には、

「お父さんとお母さんが、あなたの気持ちや意見を無視しているようなことがあったらその時は言ってね。気をつけてはいるけど、気づかないうちにそういうことをしたり言ってるかもしれないから。あなたの気持ちとか意見をちゃんと聞かないといけないことはわかってるよ。だから、自分の気持ちや意見をどんどん話してね。」

と伝えました。

子どもを想う気持ちは「愛」です。
でも、その愛を逆手にとって、子ども自身が本当の気持ちの在処(ありか)に手が届かなくなってしまわないよう、私たちもそれに目を瞑ってしまうようなことがないよう気をつけていかないとなと思ったのでした。

三島 菜央

Nao Mishima

  • 居住国 : オランダ
  • 居住都市 : ハーグ
  • 居住年数 : 5年
  • 子ども年齢 : 8歳
  • 教育環境 : 現地公立小学校

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