《Special Report》ブルキナファソの教育が教えてくれたこと

ブルキナファソから、こんにちは!

今日も虫とヤモリと汗と土ボコリにまみれて育児に奮闘中の堀井あいこです。

西アフリカからお送りしてきた連載も今回が最終回となりました。
今回は新型コロナウイルスの状況下で見えたブルキナファソの教育事情と、これまでのアフリカ生活で見出した私なりの子育ての姿勢についてお伝えしていきたいと思います。

オンライン授業って何ですか?

世界中で猛威をふるう新型コロナウイルス。アフリカでの感染者数は7月に入り40万人を超えました(データ参照元:Worldometer)。

娘たちが通っていた現地幼稚園は、3月中旬から3カ月間休園となりました。

—幼稚園の対応—

  • 政府の方針で全教育機関での休校が決定
  • 翌日、休園の案内と課題がメールで送られる
  • その後、2カ月以上連絡なし

メール添付で送られてきた課題はこちらです。

な、な、な……なんとも温かく、先生たちの愛情がたっぷりつまった手書きの課題です。

世界のあちこちでオンライン授業という言葉をよく耳にしましたが、娘の通う幼稚園ではオンライン授業の対応が取れず、3カ月の休園期間中に出された課題はこれだけでした。

アメリカやイギリス、アフリカの近隣国に暮らす知り合いが口にする「ぐーぐるくらするーむ、ぐーぐるみーと」という言葉がまったく理解できず、「オンライン授業ってなんですか?」という状態だった私。
各国でオンライン授業が取り入れられ、長女と同い年の子どもたちが画面越しにお友達や先生と交流しながらカラダを動かしている様子を知り、家で遊んでいるだけの娘たちを見てあせったり、うらやましく思ったりする日が続きました。

<現地の教育>オンラインじゃなくたって教育は受けられる

もう少し視野を広げて見てみると、ブルキナファソの子どもたちはパソコンやタブレットを持っておらず、インターネットにアクセスできない子どもがほとんどです。電気がなくテレビを見ることすらできない家庭の方が圧倒的に多いです。
学校側に限らず、ほとんどの家庭でオンライン授業を受けられる体制が整っていません。

電気がなく、小さなバッテリーを使う知人の家

そこでブルキナファソでは、ラジオ教育番組の全国放送が開始されました。これはもともと治安が悪化し、学校に通えない子どもたちに向けて読み書きができるようになることを目的に始まった地域限定のプログラムでした。
新型コロナウイルスの影響を受け、休校中の子どもたちのために5月から全国的に拡大されました。

子どもたちがノートとペンを持ち、ラジオに耳を向けて一生懸命勉強する姿を思い浮かべると、「オンライン授業をやってくれない」という理由で不平や不満を抱いていた自分がとてもちっぽけに感じられました。

学校に通えない状況下で、オンライン授業だけが唯一の教育手段ではないこと、学びたいという気持ちがあれば、どこにいたって学べるのだという事実をまざまざと見せつけられたような気がしました。

<日常の子育て>くらべられないこととくらべないこと

さて、話を我が家に戻します。

休園中の長女の様子はというと、もともと幼稚園が好きではなかったので「今日も幼稚園にいかなくていいの?」と毎日うれしそうでした。苦笑

この期間は長女がより多く日本語に触れられるチャンスと捉え、日本から持ってきたひらがなドリルを進めました。

4歳の長女は積極的に取り組んでいますが、まだすべてのひらがなは書けません。まわりに日本人の子どもがいないので、4歳の子どもがどの程度ひらがなの読み書きができるものなのか私にはわかりません。

幼稚園では母国語がフランス語の友達にまざり、フランス語でアルファベットを習っています。幼稚園には娘と同じように両親が日本人で、幼稚園ではじめてフランス語を習う境遇にある子はいません。

また、なかなか言葉を発しない次女を見ては不安になることもありました。しかし、いくらインターネットで検索してみても、生後4カ月から仏語圏アフリカの国に暮らし、両親が日本語を話す家庭の情報は出てきません。

くらべられないのです。

日本人の子どもが少ない環境で育っている娘たちには、言葉を話しはじめる時期も、ひらがなの読み書きも、アルファベットの読み書きも、くらべる相手がいません。

心配性の私の性格からすると、きっと日本にいたらまわりの友達とくらべてしまっていたにちがいありません(そして些細なことに一喜一憂していたことでしょう)。
日本人のいない幼稚園に通わせるうちに、日本にいる同年代の子がいくら上手にひらがなを書けても、ブルキナファソの幼稚園にいる友達がいくら上手にアルファベットを書けても、気にならなくなりました。我が家と同じ境遇にある子どもはいないからです。

心配性で悲観的な私がまわりの子どもとくらべずに、ゆっくりと娘たちの成長を見守っていけるこの環境を、とてもありがたく思っています。

足るを知る

世界にはモンテッソーリやシュタイナーなど、様々な教育法があります……いや、あるらしいですね。

ブルキナファソは就学前教育に通う子どもが全体の約4%(データ参照元:UNESCO統計研究所国別データ)しかおらず、幼稚園の数がとても少ないです。
数が少なく、幼児教育に重きが置かれていないブルキナファソでは教育法による選択肢がないのが現状です。

きっとどの教育法もそれぞれに優れた面があり、子どもたちの可能性を大いに引き出してくれるはずです。私も母親として、「娘たちの将来の可能性や選択肢を増やすために、より優れた教育を受けさせてあげたい」という気持ちはあります。しかし、ここにある選択肢はとても限られているのです。

教育法だけではありません。第1回レポートにて「衛生・設備的にまともな幼稚園を選んだ」と書きましたが、それでも幼稚園のトイレは満足できるものではありません。大人の私が見ても「うーん、ここではちょっと…」と躊躇してしまうほどです。

毎日使うトイレは便座がない

壊れた遊具も多くあります。気温40℃を超える中で停電になると、エアコンが使えなくなり、園内はとても暑くなります。

教育の選択肢も少なく、設備が十分といえる幼稚園に通わせてあげることができず、「娘がかわいそう」と思うこともありました。
しかし悲観的になっても、この状況が変わることはありません。たとえ優れているとされる教育法が取り入れられていなくても、設備や教具が充実していなくても、娘たちが安全に友達と笑って学べる場があれば、それで十分です。

 “足るを知る”
ブルキナファソで暮らしていると、この言葉の本質に触れられているような気がします。

「どんな子に育ってほしいですか?」

アフリカで子育てしていると言うと、この質問をよく受けます。

こういうと無責任のように感じられてしまうかもしれませんが、私には「こんな子になってほしい」、「あんな風に育ってほしい」という思いはありません。

日本で生まれ育った私には、アフリカで育ち、アフリカの現地学校に通った経験がないからです。経験のない私には、娘たちがこれからどんな道をたどり、どんな壁にぶつかるか想像もつきません。

これから彼女たちがどんな風に成長していくのか、私自身がたのしみです。

日本を含め、世界には多様な教育やすばらしい学校がたくさんあると思います。上を見たらキリがありません。ブルキナファソの教育水準は、世界的に見たら高いとは言えないかもしれません。

“くらべないこと”、

そして“足るを知る”ということを忘れずに、

これからもブルキナファソにいるからこそ得られるものに目を向け、子どもたちと一緒に成長していきたいと思います。

ブルキナファソの教育に触れて、そんなことを教えてもらったような気がします。

最後まで読んでくださり、ばーるか!(現地モレ語で「ありがとう」)

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