《Special Report》子ども本来の姿へ〜モンテッソーリの考え方〜

私はこれまで、日本とイタリアの様々な園で、先生として関わってきました。
主に公立保育園(日本)、インターナショナルプリスクール(日本)、インターナショナルモンテッソーリスクール(日本)、伊英バイリンガルモンテッソーリ保育園(イタリア)で教え、それぞれの園で、上司、同僚、子ども達、保護者達、世界中の色々な国の人達と接してきました。

それらの経験を思い返すと、日本人だけの保育園と外国人のいるインターの園での違いは勿論のこと、更には同じインターでも一斉保育とモンテッソーリメソッドの園では色々なことが違っていました。
そんな私の経験から、今回は、実際にあったエピソードと共に感じたこと、印象に残っていることなどを書いてみたいと思います。

TPOにあった話し方 or 挨拶は元気良く

モンテッソーリ園では、周りの人に迷惑をかけないよう、室内では室内にあった声で話すよう、先生自身がお手本となり子ども達に教えます。先生に話がある時も、離れた場所から先生を呼ぶのではなく、先生の側まで行き、伝えたいことを話します。
もし先生が他のことをしている最中で、すぐに聞いてもらえない時は、先生の肩に手を置いて待ちます。(これができる子は年齢によりますが、乳児のうちからも、室内では室内にあった声で話すことは常に知らせて行きます)
とにかく、他人を尊重することをモンテッソーリメソッドでは大事にします。

勿論、モンテッソーリ園に通っている子ども達も外遊びの時は、走ったり、飛び跳ねたり、大きな声で話したり、笑ったりと活溌に遊びます(笑。
一般的に、子ども達はエネルギーに満ちあふれていてとっても元気なので、外で体を動かしてエネルギーを発散させると言いますが、子ども達にとって、集中してお仕事に取りかかるということも、実はものすごいエネルギーを消耗することなのです。

日本のあるモンテッソーリではない小規模インターの保育園で、低年齢クラス担任の日本人の先生の補助としてパートで教えていた時のことです。
子ども達がみんなで朝の挨拶をした時に、その先生が「もっと元気に大きな声で!」と大声で挨拶をさせた時、私は正直うるさくてびっくりしてしまいました。
でも、その先生のために書いておきますが、その先生はまだ若い先生でしたが、きちんと資格もあり、子ども達への愛情も感じられ、子ども達からも懐かれていて、保護者達からも親しまれている先生でした。
ただ、そこの園では、そしてその先生の教育観念では、そんな挨拶指導もOKなのでした。園の方針によって、教師によって、本当に教え方って色々なんだなぁと思いました。

お片づけのタイミングと教具の片付け方と扱い方

モンテッソーリメソッドでは、使った物はその都度、元の場所に片付けてから次の物を使います。それは、次に使う人への配慮のためです。

子どもの中にある秩序感を生かして、教具はいつもあるべき所に置いてあります。そして、片付ける場所も、同じ物どうし分類されているので、見つけやすく、使いやすく、片付けやすくなっています。
大きな入れ物に、様々なおもちゃを秩序無く一緒くたに入れて片付けるよりも、整理整頓が得意な子になるのではと思います。

我が家では息子が幼い頃、低い棚と息子用の小さな机と椅子を買って、木製のおもちゃや私の手作りのモンテッソーリのお仕事(本物のモンテッソーリ教具は高額なので)をトレーやかごに入れて置いて使わせていました。自分で机やカーペットの上まで運んで、使い終わったら次のお仕事をする前に片付けること、元あった同じ場所に戻すことを知らせました。
その為か未だに自分の物でも家の物でも、同じ場所に片付けることに気をつけるので、しまう場所を確認してきたり、物の置いてある場所が変わっていたり、新しい物が加わっているとすぐに気がつきます。

夫はキッチン用品や食料品のしまってある場所は全く分からないのですが、息子はちゃんと把握してくれているので助かります(笑。
あと、これは整理整頓とはちょっと違うのですが、息子は同じ種類の物をきれいに並べるのが得意です!小さい頃は、プラレールの電車、恐竜、積み木などを並べて遊んでいました。今でも、時々レゴの人形達やトランスフォーマー達を全部並べては満足して、写真に撮ったりしています(笑。

基本的に、子ども達は選んだ教具を棚から机へ運び、テーブルマットを敷き、その上で使い(フロアーマットを敷いて床で使う教具もあります)、終わったら再び棚の同じ場所へ運んで片付けます。テーブルマットやフロアーマットを使うことによって、お仕事をしている子のワーキングスペースが目に見えて分かりやすくなり(教具を落とした時の音の軽減と保護の為にもなります)、他の子ども達はそれを邪魔しないようにして、自分のワーキングスペースを選びます。歩く時も他の子が使っているフロアーマットを踏まないように注意します。
そのため、モンテッソーリ園で、床中におもちゃが散らばっている中で、大勢が一緒に遊んでいるということはまずありません。

そして前回の記事にも書きましたが、モンテッソーリ教育では木製、ガラス製、銀製、鉄製、尖った物、包丁、アイロン、マッチなど本物を使うため、丁寧に扱わないと傷がついたり、壊れたり、火傷、怪我をしたりするので、大切に注意して扱うことを学びます。(モンテッソーリ教育では、教師が子ども達をよく観察し、子ども達の年齢や発達にあった段階で、教具の使い方を提示します。包丁、アイロン、マッチ、針などの危険を伴う教具は、まだ発達的に無理な小さな1〜3歳位の子ども達は、勿論使いません)

満足するまで繰り返して良い

モンテッソーリメソッドでは、子どもたちそれぞれが、自ら選んだお仕事を、本人が満足いくまで繰り返すことを認めています。

インターナショナルモンテッソーリ園で教えていた時、J君という温厚な性格のオランダ&アメリカミックスの男の子(4〜5歳くらい)がいました。
その子は、日常生活の練習の折り紙のお仕事を毎日の様に繰り返していました。特にその子が気に入っていたのが手裏剣作り。手裏剣を折り紙で作ったことのある方ならお分かりと思いますが、2つのパーツを組み合わせて作るので、小さい子には結構難しいです。しかもその子は外国人。折り紙をするのは生まれて初めてだったと思います。なので最初は、私や日本人の男の子の助けが必要でした。しかし、根気強く、毎日、毎日繰り返した結果、ひとりでちゃっちゃっと上手に作れるようになってしまいました!
それからというもの、手裏剣が作れなくて困っている子がいると、手裏剣マスターの彼にお願いしていました(笑。
ある時、J君のお母さんと話す機会があったのですが、お母さんが私に「Jは、家でも毎日手裏剣ばっかり作っていて、うちには手裏剣が山の様にあってミュージアムを開けるほど!」と笑いながら話してくれました。私もそれを聞いてとても嬉しかったです!

私が新卒で公立保育園の2歳児クラス(4人の複数担任)を受け持った時のことです。
そこは一般の一斉保育をしている保育園でした。私は先輩の先生と低月齢グループを受け持ち、そして更にその中の4人の子の担当保育士になりました。まだ私が保育士として教え始めたばかりの頃、自由遊びの時間が終わり、みんなでお片づけをしていた時でした。担当児の1人の男の子が片付けをしないでおもちゃで遊び続けていたので、「お片づけの時間だよ」と言ってその子の使っていたおもちゃを何気なしに片付け始めたら。。。。。ガブリ!歯形が残るほど噛まれました。
短大を卒業したばかりの新米保育士だった私は経験もなく(勿論モンテッソーリメソッドについても名前を知っている程度でした)、片付けることばかりに気を取られ、その子の気持ちが全く分かっていませんでした。その子の中ではまだ終わりではなく、遊び続けていたかったのでしょう。まだ2歳、場面の切り替えだって難しいし、そんなに簡単に欲求を抑えられるはずがありませんよね。良い勉強になったエピソードです。

何色でも、違っていても、大丈夫

私がインターナショナルモンテッソーリ園で教えていた時に、サマースクール中に子ども達にお習字をさせたことがあります。
サマースクールには、普段日本やインターの小学校に通っている子ども達も参加していました。低年齢の子達にはカタカナで「ナツ」、高年齢の子達には漢字で「夏」と書かせることにしました。大きな紙にそれぞれお手本を書いて見せ、子ども達の見える所に置いて、それを見ながら子ども達が書く様にしました。さすが、日本人の子達は正しく書けていました。外国人の子達もそれぞれ頑張って書いていました。
そんな中、卒園児でインターの小学校に通っていたアメリカ&中国ミックスの男の子O君が「夏」の字の「目」の部分の中の横線を一本多く書いてしまって、手が止まってしまっていました。その子は、見るからに間違ってしまってどうしよう…という感じだったので、「この日本語の文字を書く事はあなたにとって初めてのことで、難しいのは分かっているから、間違っても大丈夫、気にしなくて良いんだよ」と伝えると、気を取り直して最後まで書いてくれました。一本横線の多い「夏」だって良いんです。間違いに自ら気づき、投げ出さずに最後まで書いた。結果よりもプロセス重視です!

また、日本で初めてインターナショナルプリスクールで教え始めた時に、外国の子ども達や先生達は太陽の色が黄色なんだ!と驚いたことを覚えています。中には太陽を青!で書く子もいましたが、それもOK!日本人の私の中では、太陽はいつも赤でした(笑。日本の国旗、日の丸の影響なんでしょうかね?

子ども本来の姿へ

モンテッソーリの考え方の中に、<逸脱>と<正常化>というものがあります。正常化とは、異常の反対の意味ではなく、子どもが本来のあるべき姿になることを意味しています。

逸脱:無気力、うそ、不安、依存、乱暴、不器用、騒々しい、散漫などの様々な困った状態
正常化:自制心、強調性、従順、正直、優しさ、思いやり、正義感など好ましい良い状態になること

イタリアのバイリンガルモンテッソーリ園で教えていた時、普段はとても活発な男の子C君(2〜3歳だったと思います)が、テーブル拭きのお仕事のやり方を見てから、自主的にやり始めたことがありました。彼はそれをずっと何回も何日も繰り返した後(お家でもやっていたそうです)、テーブル拭きのお仕事から他のお仕事へと移行していきました。それからというもの、C君は内面から落ち着いたといった感じで、お仕事への取り組み方が変わりました。

その他にも、両親は共働きで、おばあちゃんにものすごく甘やかされて育ったG君という子がいました。その子は、自分の思い通りにならないとすぐに機嫌を損ねて、泣いたらおばあちゃんが助けてくれるという経験が多過ぎていました。とにかく、我慢をすることや1つのことに集中するのが苦手な子でした。
ある日、昼食後に床の履き掃除を子ども達としていた時、G君もやりたいとやって来たのですが、あいにく箒とちり取りのセットは全部他の子達が使っていてありませんでした。すると、その日は珍しく大人しく順番を待っていられたので、私は様子を見ていました。
結果、G君は自分の番が来るまでじっと待っていられたので、「頑張って我慢強く待っていたね」と言葉をかけました。すると、その子の顔がパアーっと明るくなって、とっても嬉しそうな表情を見せて、履き掃除を手伝ってくれました。

このように、実際に子ども達が変わったところを目の当たりにして、改めて、モンテッソーリメソッドの子どもへの大人からの正しい働きかけ方(適した環境)が大切なんだなと実感しました。

いかがでしたか?モンテッソーリ園での様子が少しお分かり頂けたでしょうか?

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