《Special Report》教科書を使わないスクールの学習環境とは!?
ニューヨークより、息子(11)と娘(7)が通う国連が運営するインターナショナルスクールの様子をお伝えするレポート第2回です。
校内は、明るく自由な雰囲気
ニューヨークに来た当時、息子は日本の小学4年生で、娘は幼稚園年長でした。アメリカの学校は9月始まりで、小中高の学制も各州で異なりますが、子ども達が通う学校は、ジュニアスクール・ミドルスクール・ハイスクールの4・4・4年制です。
最初の面接で、「どの学年に入りますか?」と聞かれました。生年月日によって一律に決められるわけではないのが、アメリカらしいと感じました。結局、息子はミドルスクール1年生(5 th grade)、娘はジュニアスクール1年生(1st grade)に入りました。息子は9歳でしたが、クラスの同級生20人の中には、9歳から12歳の子までいたそうです。
学校を訪問して驚いたのは、校内がカラフルなこと。そして、ジュニアスクール1年生の教室が、私がイメージする小学校らしくなかったこと。日本の小学生のように、黒板を向いて一人ひとり決められた席に座るというレイアウトになっていません。生徒たちは、どこに座っても自由。ときにはカーペットの上にあぐらをかいて、先生の話を聞くのです。また、黒板もなく、あるのはホワイトボードと大型スクリーンです。どことなく、温かい雰囲気がする教室でした。
教科書は使わず、タブレットを活用
授業科目は、英語(国語)、第二言語、算数、サイエンス、音楽、ヘルス(保健)、体育、ヒューマニティーズ、プログラミング、ドラマ(演劇)。ヒューマニティーズでは人権問題などを扱っています。「社会」に相当する科目はありませんが、「コミュニティ」の時間に、ニュース番組『CNN10』を視聴していますので、時事問題は一通り話題にされているようです。
体育はありますが、日本の学校のような運動会はありません。ミドルスクール以降は、楽器教育が充実しており、管楽器、弦楽器、打楽器など約15種類の楽器から選択することができます。息子は、一年目はトランペット、2年目からバイオリンに転向しましたが、基本的には「変更しないで、ずっと続けること」を勧められます。高校生になると、カーネギーホールでの演奏会など、ニューヨークらしい豊かな体験ができるようです。
この学校では、どの科目も、一斉に配られる教科書はなく、授業で使われる教材は、先生の裁量に任されています。娘のESLのクラスでは、フォニックスのワークブックがありましたが、そのほかには冊子状の教科書類は一切なく、進度に合わせて必要なワークシートのコピーが配布されていました。また、先生がレベルに合わせて選んでくれた絵本をたくさん持ち帰って読んでいました。音声つきの読書アプリも活用。このアプリによって、かなり英語力がついたと思います。
ミドルスクールの息子の方は、一人一台パソコンを支給されています(パソコンが支給されるのは、ジュニア3年生から)。たとえば算数であれば、計算などはアプリを使って、各自が自分のペースでどんどん進めていきます。日本の計算ドリルのような感覚ですね。サイエンスであれば、たとえば、「深海生物について学ぶ」というテーマの場合、深海生物について解説した映像のYouTubeを先生が指定。そのYouTubeを見て、質問の回答をグーグルドキュメントでシェアします。このように、課題もパソコン経由で提出することがほとんどです。
日本の小学生は、文字や漢字の練習に始まり、とにかく鉛筆で書いて勉強するイメージが強いですが、息子は作文もタイプして提出しています。先生自身も、日本の学校のように、授業中にすべてを板書することはありません。もちろん、ホワイトボードも使いますが、事前に作成してある資料をスライドショーでスクリーンに流すなど、使い分けているようです。
充実の外国語教育
英語ネイディブではない生徒が学年に何人もいて、ESLはもちろん、外国語教育も充実しています。ジュニアスクール1年生から、ESLを卒業した生徒は、第二言語として、スペイン語とフランス語の授業が受けられます。また、フランス語を母国語とする生徒は、算数は特別授業があるそうです。数字に対する概念が、英語とは異なるからでしょうか。
ミドルスクール3年からは、第二言語、第三言語として、フランス語、スペイン語、イタリア語、アラビア語、中国語、日本語などが受けられます。
ジュニアスクールから、プログラミング教育
ジュニアスクールから、簡単なプログラミングの授業があります。娘のクラスでは、友だちとペアになってロボットをプログラミングして、実際に動かして楽しんだようです。
息子は、ミドルスクールの1年目からスクラッチの基礎を習いました。また、3Dプリンターで、自分でデザインしたキーホルダーを製作。2年目からは、HTML、CSS、Java Script の基礎を学び、習得が速い生徒は、アプリを使ってどんとん先に進むことができます。デジタルな世界に対する子ども達のセンスには驚くばかりで、「デジタルネイティブとはこういうことか」と感動しています。
小さな発言からプレゼンまで、話すことを重視
「授業で一度も発言しないことはない」と子ども達は言います。日本の公教育に比べ、こちらでは発言することを重視していると感じます。パワーポイントを使った簡単なプレゼンをする機会も多く、息子は、SDGs(持続可能な開発目標)、世界人権宣言、古代エジプト・ギリシア・ローマについてプレゼンしてきました。また、クラスを2分割して、難民問題についてディベートするような機会もあったそうです。
同時に「発言しない自由」も認められているようで、驚いたエピソードがあります。娘のクラスを参観したときのこと。先生が生徒に、「一人ひとり、『自分が平和を感じるとき』について一言ずつ発表して」と提案するとともに、「もし言いたくなければ、パスしていいわよ」と。実際に「ボクは言いたくない」と言った生徒に対して、先生が笑顔で「O.K.」と言って、順番は次の生徒へ。強制がなく、生徒の意思が尊重されていると感じました。
自由と多様性を認める環境で、子ども達も活発に
保護者として学校を出入りしていて、多様性への意識に驚くことが度々あります。
まず、オリエンテーションで、「トイレは、男性用と女性用があるけれど、自分が心地よい(comfortable)方に入っていいですよ」と言われたこと。性の多様性といえば、「パパが二人」という家庭もありますが、学校側も生徒たちも保護者も、それを普通に受け止めています。
息子は特に、もともと周りと違うことに敏感な性格で、日本の学校に通っていたときは、「クラスのみんなが長袖なのに、自分だけ半袖」といったことを気にするタイプでしたが、ニューヨークに来てからは、「みんな人のこと気にしてないよね」と言うようになりました。学校には細かい校則がなく、服装も自由。髪を赤くしている子もいますが、そもそも、肌の色も髪の色も、みんなバラバラですから。
我が子は二人とも基本的におとなしい性格ですが、今では英語も話せるようになり、友だちもできて、活発に楽しく過ごしています。