【オランダ/ハーグ】「私はADHDだからね!」と明るく教えてくれた生徒
こんにちは!どんどん寒さが増す今日この頃、みなさんお元気でしょうか?
TA(teaching assistant)として現地小学校の授業に入る日は、朝から自転車に乗って暗闇の中を爆走します(いや、時間に余裕持って行きなさいよ)。
だいたい8時前には家を出ますが、それでも周囲は真っ暗なのがこの季節のオランダ。出勤中の人たちや、学校へ向かう子どもたちがチラホラいる中、airpodsを耳につけ、やや熱唱気味で自転車を漕ぐのが私です。←
groep8(小6)のクラスの授業で使ったハンドアウト
TA(teaching assistant)で入る日は、groep4(小3)からgroep8(小6)の授業を担当します。私はあくまでアシスタントなので、授業内容はメインの先生が考え、学校の到着すると「今日はこれやるね〜!」と授業の説明を受けて、授業に向かうというスタンスです。
この日の小6クラスでは「自分を見つめよう」というテーマで、自分自身の似顔絵を描くことと、自分の内側を描くこと、そしてそれを英語で発表しようという流れで授業をしました。
使ったのはこのハンドアウトでした。
そこには、
“Draw and color what you look like on the Outer Self side of the face. Draw and color your hobbies, emotions, thoughts, and feelings on the Inner Self side of the face. See the sample picture for ideas.”
と書かれています。意訳すると、
「”Outer Self”と書かれた方にあなたの似顔絵を描いて色を塗りましょう。そして、”Inner Self”と書かれた方には趣味や感情、考え、気持ちなどを描いて色を塗ります。例が必要な場合は、画像を参照してください」
と書かれています。
中等教育への進学を決める時だからこそ、自分にフォーカスを
パートナーの先生に「どうして今日はこの教材にしたの?」と聞くと、「この学年は最近中等教育への進学に向けて、学校を調べたり、自分は何がしたいのか、学びたいのかということについてよく考えているみたいだから、英語でも自分の内側にフォーカスするような教材をしようと思ってね!」と返答がありました。
「そうか、やっぱり教科指導も横で繋がった内容(教科横断型)にしようと気をつけているんだな〜」と感じました。
そして、生徒たちはハンドアウトを受け取ると、思い思いに自分の似顔絵を描き始め、内側にある自分自身の興味や関心についても絵を描き始めました。特に悩んでいるような生徒はおらず、「ホッケーが好き〜」とか「音楽聴くのが好き〜」という感じで、自分なりに絵を描いていたように思います。
とりわけ丁寧に絵を描いている生徒
そのクラスには、いつも授業中にノートを取り出して絵を描いている生徒がいます。英語の授業に集中していない訳ではありませんが、与えられた課題に取り掛かるのはいつも少し遅め。隙あらばいつも自分のノートに絵を描いています。プレゼンテーションを作る時などは、レイアウトなどを考えるのに存分に力を発揮することができる生徒です。
その生徒がとても熱心に自分の似顔絵を描いているのを見て、私は「とても丁寧に描いているんだね〜」と声をかけました。「内側の自分で描くことは何か決まっているの?」と聞くと、
「私はADHDだから、色んなものや色んなことで頭の中がいっぱい。浮かんでは消え、また消えては浮かんできてって感じ。ちょっと掴めないんだよね〜」
と言ったのです。
自分の特性と付き合いながら教室にいること
その生徒にそう言われるまで、私は正直その子がADHDだとは気づいていませんでした。あまり笑顔にならない子で、人の意見を気にせずハキハキした物言いだとは思っていました。よく絵を描いているし、とにかく何かをしていないと落ち着かないような生徒だな〜とは思っていました。
でも、それくらいです。オランダの小学校の教室は日本の一般的な教室の雰囲気に比べると、とても自由で、「やる子はやるけれど、やらない子はやらない」というスタンスが基本的に許されているように感じます(もちろん学校差はあります)。よって、授業中に行き過ぎた行動、例えば大きな音を出して他者の学習権を奪うような行為などは注意を受けたり、教室の外でクールダウンするように言われたりしますが、「やるかやらないか」は基本的に子どもに委ねられています。
そして、その生徒は不真面目ではないにせよ、全体的な流れにきちんと乗る生徒ではありません。でも、教師の眼差しには余裕があって「行き過ぎた行動になるまでは子どものやり方を観察する」というような前提があります。
だからこそ、その生徒は教室に溶け込んでいます。他にいる特性のない「不真面目な生徒」と同様に、教室に溶け込んで「自分のペース」で学習しています。
一人ひとりに「必要な支援」を見つめること
「生徒一人ひとりを見るときにレーベルは必要ない、その子に必要な支援があるだけ」別の学校の先生はそう言いました。
もちろんその生徒も、ずっと絵を描き続けていたら他の生徒と同様に注意を受けます「いい加減片付けなさいね」と言われます。でも、それは彼女にとって必要な声かけが「そうだから」そのように言われるだけなのです。
一方で、彼女は自分の特性を理解しています。自分自身が不得意なこと、得意なことを、他の生徒がそうであるのと同じように理解し、私に向かって「私はADHDでね…」と話せているのです。そして、彼女はそれを理解していることで、他者に助けを求められ、自分自身を楽に生きることができるのかもしれません。
もちろん、全ての特性を持つ生徒がこのように学校生活を送れているとは限らないでしょう。特性の程度もシビアではないからこそ、こうやって教室で居心地良さそうに過ごせている…というのも考えられます。また、ひょっとすると、この生徒はオランダの教育の中でも「ラッキーな生徒」なのかもしれません。
それでも、私は11歳の少女が私に向かって自分の特性についてオープンに話せることは、とても素敵なことだと感じました。
その後、彼女は描いたり消したりしながら、自分自身の内側にある様々な興味や関心を彼女なりの絵を通して表現していました。授業はそこで終わってしまったので、最終的に完成したのかどうかはわかりません。でも、彼女のペースで、彼女が納得するように時間をかけて、彼女らしく課題が出来れば結局それが彼女にとって1番大切で意味のあることなのではないかと思ったのでした。
この記事を書いたボーダレスライター に
もっと話を聞きたい方はこちらをClick!
三島 菜央
Nao Mishima
- 居住国 : オランダ
- 居住都市 : バーグ
- 居住年数 : 3年
- 子ども年齢 : 7歳
- 教育環境 : 現地公立小学校