【オランダ】かつて私が授業の一部をYoutube配信にした話(1)

日本では大学入試改革でニュースが飛び交っていますね。
教育とは本当に”どこからメスを入れるのか”という判断がとても難しいものだと感じます。
ただ単に私の知識や経験不足故にそう感じるのかもしれませんが…

さて、私は7年間公立高等学校の英語教師として働いていた訳ですが、
娘をオランダの現地校に通わせながら、教育というものを再度見直す日々から、
“教え方”“学び方”というものについて日々考えています。

今回は私が現役教師の時に授業の一部をYoutube配信していた
という内容について書きたいと思います。
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実は、教師として最後の1年、私は授業の一部をYoutube配信していました。
これには、最後に勤務していた高等学校の技術の教諭がとても先駆的な人で、学校全体でGoogle for schoolというのを導入し、生徒一人ひとりが“@学校名.com”のGoogleアカウントを持っていた。というラッキーな背景があります。
また、幸運にも学校全体にWiFiが整備されていたため、私自身も赴任してすぐに「これは活用するしかない!」と心を躍らせました。

ちなみに、日本におけるICT(情報機器)の導入率は、先進国の中で最下位レベルだと言われています。私が調べた情報によると、WiFi、つまり学校において無線インターネットが設置されている学校は全体の25%程度だと言われています。

つまり、生徒はこの4Gが5Gに変わると言われているような高速インターネットが当たり前の時代の中で、インターネット設備もない学校で未来のために学んでいるのです。

整理しておくと、私が最後に赴任した高校でラッキーだった点は;
・全校生徒がGoogle for Schoolのアカウントを持っていた
・校舎のほとんど(教職員も含む)でWiFiが使えるような環境にあった
という2点です。

ちなみに、これが学校教育においてどれくらいの確率で起こり得るかというと、10%以下だと思ってもらって良いのでは…さらに言うなら、このアイデアが実行されたのは、最後の学校に勤務していた技術の教諭が、学校予算の獲得から使用まで上手に行い、学校全体でWiFiが使えるように自ら工事を行ったという背景があります。

ちなみにGoogleはこういった教育関連の便利な機能を無償で解放しています。
教育をよくするための技術開発に関するためのものは無償利用できるようにする。
本当に懐が深い企業だと思います。

さて、少し話はずれましたが、とにかくそういった背景があり、私も使ってみるっきゃない!と授業の在り方について考えに考え抜いた結果、Youtubeでの授業配信に踏み切ったのでした。

これについては賛否両論で、教師の中には様々な意見がありました。
既に数学科で実践している教諭が2名ほどいたので、それまでの経緯や使い方などについて、最初は色々と教えてもらいました。
彼らもまたYoutubeの使い方を模索中で、互いに「良いアイデアがあったら共有しましょう!」と励まし合っていました。
校長はこの動きに大賛成で、「是非、先駆者になって欲しい」と言われていました。

しかし、生徒の中にも戸惑いがありました。彼らが学校教育で受けてきたこれまでの授業はそのようなものではないからです。
恐らく、この記事を読んでくださっている”日本で教育を受けてきた人”なら安易に思いつく、”あのスタイル”の授業が今の彼らにとっても”授業”なのです。

Youtubeでの授業配信について書く前に1つだけクリアにしておきたいことがあります。それは、私はあくまで“授業の一部”をYoutube配信にした“ということです。

配信した授業の内容は“授業の復習”ではありません。
つまり、いつもの授業を録画してそれをYoutubeに配信する…といったものではなく。
私がYoutube配信にしたのは、“教科書の文法解説”の部分だけでした。
つまり、“教科書の文法解説動画”だけを別で撮影して配信していたということです。

何故”教科書の文法解説”だけをYoutube配信にしたかと言うと、
「文法説明をするのに、40人が集まらなければいけない理由がない」
と判断したからでした。

よく考えてみて欲しいと思います。
多くの人たちにとって「文法説明」や「本文解説」は楽しい時間だったでしょうか?
英語が好きな私でさえも、高校の時「面白くないなぁ」と思っていました。
それは、多くの場合、文法解説た本文解説というのは、教師が板書し、それをノートを取り、教師の後頭部を見つめる時間だけが流れて行く…という時間だったからです。

もちろん、好きか嫌いかという質問に対しては「私は解説が好きだった」という人もいると思います。私が教えてきた生徒の中にも「文法を説明される授業が面白い」と言う生徒はいました。
しかし、そういった形式で行われる、文法説明や本文解説の授業において、40人の生徒が集まっている必要性はどこにあるのか。というのが私の問いでした。
一人ずつ、座席順や名簿順に問いの答えを答えていくような、無機質な授業なのであれば、動画で十分だと思ったのです。
40人が集まる理由とは、40人が集まって、対話をして、関わり合うからこそ生まれるものだと思いました。

また、Youtubeの配信を文法解説だけに絞ったのには;
・授業の復習配信となると「どうせ動画見ればいいし」と出席する授業を疎かにする生徒が現れるから
・文法解説で聞き逃した部分こそ、巻き戻したりする必要がある
・動画配信することで、文法を理解する上で”自分に必要な内容”を精査するようになる
という理由もありました。

授業の内容を全て動画配信にして「動画見てたら、先生の授業に出席する意味ないやん」となっては困る訳です。
それと同時に、授業に来たからには「来た意味がある」と思う授業でなければいけない訳です。(これについては次回書きます)

教科書の文法解説というのは、「はい、じゃあこの品詞は何になるかな…◯◯さん」というかたちで一問一答的に授業が進むことが多く、その間40人中残りの39人の生徒の思考は完全にストップします。

また、”英語が嫌い/苦手な生徒”は?
「あぁ~早くこの時間終わらへんかな~」と思っているうちに不意打ちで教師から当てられ、前もってクラスメイトに聞いておいた答えを”やってきました風”に回答することでその場をしのぎます。

….こんな授業、誰得?ってやつです。茶番感がすごい….

そこで私は「この部分(文法説明)は動画にしたらええやん」と思ったのでした。
動画であれば、各自が自分のスピードでメモを書くことが出来ます。
わからなければ停止したり、巻き戻したり、辛気臭いと思えば×1.5で再生することもできます。

また、動画では黒板に板書するのではなく、生徒に配布したものと同じプリントを画面に写しました。
私の手元、つまり“プリントの英文に解説内容を書いていく手+音声”だけを撮影しました。

教科書の本文が一文ずつ印刷されたプリントを予め作っておいて、最初の授業の時に生徒に配布するのですが、一文ずつの間は大きく8cmほどのスペースがあけられています。そこに私がどんどん英文を解釈する上で必要なメモ書きを残すのです。
少し上のレベルを狙いたい生徒のためには、英文の中に出てくる新出単語の対義語や同義語、ちょっとしたマメ知識などもメモとして書き込みます。

そして、そのメモ書きを残す時には、
“最低限知っておいて欲しいこと”から“ここは発展的”というところまで説明しながら書き加えていきます。
つまり、自分のレベルに応じてメモを“書く・書かない”を決めるということです。
“学びの決定権は自分にある”これが主体的に学ぶための鍵だと思っています。
情報の取捨選択を自分で行うことが大切です。

また、動画の中ではマーカーによる色分けを頻繁に行いました。
主語→ピンクマーカー
動詞→黄色マーカー
新出単語→青マーカー
イディオム→緑マーカー
接続詞→オレンジマーカー
というようにして、生徒には
赤ペン、青ペン + 5色マーカーを活用して勉強するようにアドバイスしました。
私は英文の視覚化は重要なポイントだと思っています。色分けしていくとだんだん英語の特徴が見えてくるのです。

「主語(ピンク)っていつも文章の前の方にくるな」とか、
「接続詞(オレンジ)のあとには必ずと言っていいくらい主語(ピンク)がくるんだな」とか、そういう視覚によって言語を学ぶことも効果的だと考えています。

私の経験上、ほとんどの生徒は英語がわからないのではなく、“英語の勉強の仕方がわからない”のだと思っています。英語が苦手なのではなく、学び方の確立が苦手なのです。
私が動画で教える勉強法は1つの例でしかありませんが、「そういう方法もありだな」というのに出会うことで自分の勉強法を確立していく種になります。

さて、この動画をアップし始めたことによって、生徒たちの間では、
「先生、英語めっちゃわかるようになってきた!!!!!」という声が出始めました。
これは、私の解説が上手いとか、そういうことではありません。方法論の話だと思っています。

つまりは動画を観た生徒が「自分のためにカスタマイズされた授業だ」と感じた。ということです。そして、英語の勉強の仕方の一例を観て「あぁ~、そうやって勉強するんか」ということが見えた。ということです。
この、”授業(文法解説)の動画配信”はかなり効果的に見えました。

しかし、これはあくまで“家で動画を観よう”と思う生徒に対してだけ…
そうです。
「え、観るか観ないか自分次第?じゃあ観ないよね~」
という、モチベーションの低い生徒に対する対策が必要になってくるのでした…

次回へ続く…

and more...