【オランダ/ハーグ】近所のゲイカップルと私の後悔

私が住んでいる自宅の近くには、初老のゲイカップルが住んでいます。
私が彼らを見かけるときはいつも一緒に歩いていて、時に手を繋いでいます。

そんな彼らを見ていると、私は自分の教員時代のことをいつも思い出します。

「他の男子生徒と一緒に着替えるのが嫌だ」と言った生徒

高校で働いていた時、体育の授業や、体育大会、球技大会というような体操着に着替えなければいけない授業や行事があると、「他の男子生徒と一緒に着替えるのが嫌だ」と言う生徒がいました。

特に球技大会の時には、
「何故、この行事に”みんな”が参加しないといけないのかがわからない」
と訴え、「参加しない権利」が何故認められないのかと、私に語りかけてくれていました。

私はそんな生徒に対して「参加したくなかったらしなくても良いんよ!」と手を差し伸ばしたつもりでしたが、その生徒は私のクラスの生徒ではなく、そして、私もそれ以上のアクションを取ってあげることができず、その生徒は所属するクラス担任の指示に従うしかありませんでした。

「全体の流れを乱すめんどくさい生徒」

日本の教育活動において、特にクラスや、学年、学校全体で行われる行事において「参加しない」という意向はあまり認められません。全体で同意した訳でもない行事が「当たり前」のように執り行われ、在籍する生徒たちは「強制的に」参加しなければいけないというのが普通でした。

一方で、オランダでは「参加しない」という権利が比較的認められやすいと感じます。もちろん「何もしたくない」と授業に参加することを拒否することは出来ません。

ただ、私が見てきた光景の中では、クラス全体で英語の授業でスクリーンを見ながらダンスする時、ダンスをするのが恥ずかしいと思う生徒は端っこの方でスクリーンを観ていることを許されていました。もちろんこれが「一辺倒」に認められたり、認められないということではなく、担当教員がその生徒との関係の中で「認めたり認めなかったり」というのが発生します。

話を戻すと、私が勤務していた学校では、その生徒のように「参加しない権利」を主張する生徒は「全体の流れを乱す者」として扱われ、あまり喜ばれなかったように思います。

私は無力で、視野が狭かったと思う

「参加したくなかったらしなくても良いよ!」

私のあの言葉はその生徒にとっての「助け」になったのだろうか。そのカップルを見ていると、いつもそんなことを思います。

何故もっと耳を傾け、話を聞いてあげなかったのか。
あの時の私は言葉をかけることで精一杯で、無力で、視野も狭く、何より自分が抱える仕事に忙殺され、その生徒をきちんと見つめてあげられていませんでした。

その生徒を「めんどくさい生徒」と扱う流れに同調していなくても、結局私が取った行動は、それと同じだったのではないかと思うのです。

彼らに挨拶をしてみて感じたこと

先日、彼らとすれ違う時、勇気を出して”goedemiddag”と挨拶をしてみました。すると、彼らがニコっと笑って”goedemiddag”と挨拶を返してくれたのです。

当時のあの生徒が、今はどこでどんな生活を送り、誰を好きになっているのかはわかりません。

しかし、彼らの笑顔を見て、
「自分が自分であることを大切にし、同時に、大切にさせてもらえる社会で生きてくれていたら良いな」と思いました。

年齢からするに、あの初老の男性2人も難しい時代を生きてきたかもしれません。どんな苦労があったのか、はたまたなかったのか…そんなことは今の私に知る由もないことです。

しかし、愛する人が異性であれ同性であれ、ただ好きな人と自然に手を繋ぎ、居心地良く暮らしていける社会をつくるためには、私が偏見を持たず、ただありのままの彼らを受け入れることが必要なのではないか。それが彼らの「希望」につながるのではないかと思いました。

子どものバイアスに立ち止まる

「男の子なのに、ピンクが好きなんておかしい」
「女の子なのに、電車や車でばっかり遊んでいる」

子どもからそんな言葉を聞くことは度々あります。

6歳になる娘も、オランダで暮らしているからといってそういったことを全く口にしない訳ではありません。彼女が見えている世界はこの世界のほんの一部で、そこに新しい視点を与えていくのは保護者の役割とも言えます。

もちろん、私も完璧とは言えませんが、娘のバイアスがかかった発言には積極的にポーズ(ちょっとした休憩)を取るようにしていて、

「男の子でピンクが好きやとあかんかな?」とか、
「女の子でも電車や車が好きな子っていると思う!」とか、

「え、そうなのかな?」と彼女自身が考える機会を与えられたら良いなと思います。
そんな時に、近所のゲイカップルの話を挙げながら「あのおじさんたちはいつも幸せそうに手を繋いで歩いてるよね」なんて伝えたら、娘なら「確かに!」と言ってくれそうな気がするのです。

私もまだまだ勉強中ですが、娘と一緒にそのバイアスを少しずつほぐすことで、社会を少しでもみんなにとって居心地のいいものにしていきたい。
そんな風に思ったのでした。

この記事を書いたボーダレスライター に
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三島 菜央

Nao Mishima

  • 居住国 : オランダ
  • 居住都市 : バーグ
  • 居住年数 : 2年
  • 子ども年齢 : 5歳
  • 教育環境 : 現地公立小学校

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