【オランダ/ハーグ】学校での昼食時のテレビはアリかナシか?
こんにちは!今日も朝から現地校のお手伝いに。朝の気温は10度を下回り、手袋なしでは自転車15分の道のりは耐え難くなってきました。まだ薄暗い朝、自転車に乗って職場や学校に向かう人たちと同様に自転車を漕ぎます。雨の日も晴れの日も、こうやって自転車を漕ぎ続ける人々に逞しさを感じます。
学校の昼食時、子どもたちにテレビを観せるのは…
さて、娘の小学校ではどうやら昼食時に子どもたちのテレビを観せているようです。ひょんなことからその状況を見た保護者が、クラスのWhatsAppに進言しました。
「子どもたちが昼食時にテレビを観ていました。私はその状況を見てショックだったんだけど、みんなどう思いますか?うちの子どもがよく昼食を残して帰ってくることがあると思ったら、テレビを観ていたから集中して食べていなかったんだとやっとわかったわ。」と。
それから、さまざまな保護者の意見が飛び交いました。基本的にテレビがついていても問題なく食事を終えられる子もいれば、それが気になってほとんど食べずに帰宅している子もいることがわかり、それに対してそれぞれの保護者が自分の意見を述べます。
「昼食時、子どもたちには会話を楽しんで欲しい」
「うちでは食事時にテレビはつけない。食事にテレビは必要ない」
「子どもたちがその状況でリラックスして食べているなら問題ない」
「そもそも、昼食時に子どもたちを見ている人たちは何をやっているのか?テレビを観せる人にお金を払っているわけではない」
オランダでは教師による”給食指導”は存在しない
日本の初等教育では、給食時に教師は生徒と食事をすることが多いですが、それは「給食指導」なるものが存在するからです。つまり、日本の小学校の先生にとっての給食は教育活動に含まれています。…ということは、そこで勤務した分の時間を休憩時間として別枠で用意する必要があるわけですが、日本のほとんどの教師が「休憩時間」を享受できていません。これは、小学校教員だけに言えることではなく、中等教育でも給食指導こそないにせよ教師は「休憩時間」をとることが出来ていない実態があるように思います。
少し話がずれましたが、オランダの小学校では昼食時に教師が休憩時間をきちんととるために、教師の休憩時間中”overblijf”と呼ばれる子どもたちのお世話係を雇用している場合があります。給食時間は日本に比べると短いことが多いですが、短くても30分、長い場合はoverblijfが1時間ほど教室に入り、子どもたちを見ています。食べ終わると外遊びの時間だったりするので、その際も子どもたちに付き添ってくれたりします。そして、娘の学校ではそのお世話係に対して保護者が€175/年を支払っています(学校によって値段は異なります)。ある保護者が言いたいのは、保護者はテレビを観せる人に対して€175を支払っているのではないということでした。
食育という概念がほとんどないオランダの教育
さて、そもそもこちらの小学校における「昼食」はそこまで重要視されていません(という感想を持っています)。食育という観点もほとんどなければ、子どもたちが昼食時に食べているものと言えば「パンにチーズとハムを挟んだもの」であることがほとんど。それをオランダ語で「サンドウィッチ」と呼んでいると聞いた時は、私が想像するサンドイッチは超豪華な食べものに思えたほどです(苦笑)。
そもそも「食べながらテレビを見るという選択肢」があること自体に最初は驚きましたが、まず「食べる」ということが日本ほど大切にされている環境がない価値観においての「昼食時のテレビはアリかナシか?」なのです。
保護者からの進言と学校の対応
様々な意見が保護者から出た結果、学校への連絡係の保護者が学校にそれらを進言しました。その後、学校から保護者に正式な回答がなかったことに対して、まず「それってどうなん」と思った私ですが(笑)、ひとまず校長もそれをoverblijfに伝え、テレビを全く観なくなったのではなく「頻度が減る」という解決策(?)で落ち着いたように見えました。しかし、ある保護者の子どもが2日連続でほとんど昼食に手をつけず帰ってきたことで、その保護者がWhatsAppで意見を述べ「頻度を減らすんじゃなくて、やっぱりテレビはいらんやろ!」という議論がまた浮上してきたのでした。
すでに学校と保護者との間でミスコミュニケーションが生まれているような雰囲気なのですが(笑)、まぁこんなこともよくあるもんだよなと思いながらやりとりを見ていました。ちなみに娘にも意見を求めたところ「私は別に何でもいい。テレビがついてても、おしゃべりだけでもお昼ご飯は食べられる」とのドライなご意見をいただき(笑)、まぁでも個人的な意見としては、やっぱり昼食時は友だち同士で喋りながら食べて欲しいかな〜と思っていたところです。
見学したほとんどの小学校ではテレビを観せている
ただ一方で、結構な数のオランダの小学校を視察してきた身としては、昼休みのテレビ視聴がほとんどの学校で行われているのを目の当たりにしてきました。学校によっては「その方が静かに食べるから」と言い、別の学校では「テレビを観ながら子どもたちが議論をしたりすることもあるから」と、子どもニュースを観せているところもありました。
この「静かに食べるから」と学校が言ってしまう裏側には、オランダの子どもたちが「あまりにも自由すぎる」という背景があるようにも見えます。日本生まれ日本育ち、日本の教育を受けてきた私としては「給食時間に節度を守って給食を食べる」という行為は自分だけではなく、クラス全体にとって当たり前とも言える慣習ですが、オランダの子どもたちのありようはそれを遥かに上回るように見えます。
しかし、それは「良い」とか「悪い」ではなく、それだけ「食に対する意識が向いていない文化」であるということが影響している“だけ”とも言えます。つまり、家庭でも「座って落ち着いて食べる」ということが日本ほど大切にされていないと見えるところもあり、家庭の習慣が学校の昼食時にも出てしまっているのでは?とも思うのです。よって、そんな文化を持った不特定多数の子どもたちを一つの教室で「食べさせる」という目標を達成するために、ただ「テレビを観せて静かに食べさせる」という合理的な判断を下しているようにも見えるのでした。
「子どもたちの意見を取り入れています」との回答
そして今日、学校からの回答で「子どもたちに聞いた結果、4日のうち2日はテレビを観ても良いという結論になりました」と連絡がきたことで、保護者の中に、「いや、だからそれは全体の半分(2日)ってことやから多いやろう…」という意見などが出て割れています。笑
それに対して、
「子どもたちがそう決めたのならそれで良いじゃない」と言う保護者もそれなりにいて、やっぱり子どもに判断を委ねている雰囲気を感じると同時に、「やっぱり昼食時にテレビは完全になしにすべきじゃ?!」と言う保護者もいて、面白いなと感じています。
そして、何より特徴的なのは誰も多数決をとらないこと。
娘に聞いても、意見は聞かれたけれど手をあげて先生がその数を数えるようなことはなかったそうです。そう…こういう問題は多数決ではないのです。「民主主義 = 多数決」ではないということを改めて感じ、保護者が忌憚なく自由に意見している雰囲気に「そもそもこの雰囲気良いやん〜」と思ったのでした。
僭越ながら意見してみました。←
学校からの回答にある保護者が「みんなはどう思う?」と聞いてきたので、僭越ながら私も自分の意見を表明してみました。
個人的には、昼食時にテレビを観るというのは完全に同意はできないにせよ、それが子どもたちの判断なのであればたとえ7歳の子どもだっとしても「自分たちで決めたこと」を実行してみれば良いと思う。というのが私の意見です。
ただ、自分たちの判断にはちゃんと「みんな」が入っていて欲しい。それはつまり、全員が(例え自分が少数派だとしても)自分の意見を表明できるだけの「安心安全な教室」がそこにあるかが問われると思うのです。例えば、昼食に手をつけず帰ってしまう子が、家に帰って保護者に「何で食べてきてないの!」と言われたことに何かを感じているのであれば、それはきちんと教室でシェアされていて欲しい。そして、それに対して残りのクラスメイトが何かを感じる教室でなければいけないように感じます。
もちろん保護者は心配で、7歳の子どものことに色々と口を挟みたくなります。でも、私は基本的に子どもの判断を信じたいと思います。そして逆を言えば、子どもを信じられるような子育てを私たち自身がするしかないと思っています。
…とまぁ、WhatsAppではそこまで熱くは書いていないのですが「基本的には子どもたちがこれで良いと決めたことを尊重したいけれど、前提としてその判断をする時に全ての子どもの意見がきちんと反映されているということが大切だと思う。もしその上での結論なのであれば、私はそれで良いと思っている」というようなことを書きました。
「それで良いんじゃない?」と思う人もいれば、
「こんなのあり得ないでしょ!」と言う人もいる。
白とも黒ともつけにくい問題を多数決ではなく議論で乗り越えていく。それはめんどくさいし時間がかかることなのですが、その場その場で判断して、変化に応じて議論を続けていくことって、めんどくさいからこそ大切なことなんだろうな〜。と感じています。
さて、この先どうなるのか!
この記事を書いたボーダレスライター に
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三島 菜央
Nao Mishima
- 居住国 : オランダ
- 居住都市 : バーグ
- 居住年数 : 3年
- 子ども年齢 : 7歳
- 教育環境 : 現地公立小学校