【オランダ】オランダの深刻な教員不足

先日、学校のアプリを通じて全校生徒の保護者にこんなお知らせが届きました。

「オランダ全土で深刻な教員不足が続いています」

これは今に始まったことではなく、ここ数年、ひょっとすると十数年前から取り沙汰されている問題です。
原因は様々ですが、移民の増加により、より多くのサポートが必要な生徒が増え、そこに人員が割かれているということが問題の1つかもしれません。

もちろん、うちもそういった”移民”の一人です。
より良い教育環境を求めてオランダに移住したわけですが、その決断がそもそもオランダに住んでいる人たちの教育環境を脅かしている…ということでもあります。

よって、オランダ人からしてみれば「あんたたちのせいで」と言われても仕方のない存在であることは重々承知しています。
だからこそ、移民である私たちはこの国の言語や文化を尊重し、生きて行かなければいけないと強く感じています。

ただ、移住してきた立場で言うのも何ですが、「肩身の狭い思いをしろ」と言われると、それはまた少し違うんじゃないか。と思うこともあります。(もちろんそんなことを言われたことはありませんが)

移住してきた者として敬意を払うところにはきちんと敬意を払い、この国の文化をきちんと知り、学び、尊重することで、「別にいてもいいんだよ」と思ってもらえるようにすることもまた、移民としてのマナーだと感じて生活しています。
また、オランダという国がそういう人々に対して同じく敬意を払ってくれることを願っています。

さて、学校からの連絡には続きがありました。
「オランダにおける教員不足の事態は深刻です。本校のグループでもこの問題に真摯に向き合いたいと考えてはいますが、このような事態であることを保護者の方々にもご理解いただくために、このようにご連絡申し上げます」

日本とオランダ、どっちが深刻な教員不足か。

それは両国の数字を比較していないのでわかりませんが、日本の教員不足もかなり深刻です。
日本では2019年の5月現在で「未配置(教員が必要でありながらも足りていない状況)」が1214件発生しています。
また、精神疾患を患い、学校現場に戻れない教員が2019年度は5077人にのぼったそうです。

日本とオランダの教員不足の原因を比較すると、その原因や内容は異なるような気がします。

日本はまず、教員はいるけれど精神疾患により休職や退職をする教員が多く、それらの状況から教員を志す人間が減っている。また、小学校や中学校教員の方が高等学校教員よりも仕事量が多い上、激務にも関わらず、給与が低いこともあり、教職志願者が減少傾向、退職者も多くなっている。

オランダは、移民政策により移民を多く受け入れたことによって、より多くの教員が必要になり、そこに教員数が足りなくなってきている。また、小学校や中学校教員の方が高等学校教員よりも生徒のケアが大変であるにも関わらず、給与が低いこともあり、教職志願者が減少している。

給与面に関しては「それでも先生はたくさんもらっているでしょう」と、一般的によく言われますが、教員の給与を含め、教育にかかる費用はそもそも一般企業のそれと比べるものではない。と私は思います。

教職員の給与や、教育にかかる費用はが一般企業のものと比べられる…そういった社会になればなるほど、教育をビジネスと同じように考える風潮に拍車がかかり、本来の“教育の価値や定義”が揺らぐと私は考えています。

もちろんそれらの保護者の声は、「熱心に教育活動を行わない教師に対する不満」からの発言だとは思うのですが、不満が増えれば教育はさらに硬直し、教育が硬直すればさらに不満が溢れる…という風に、堂々巡りが終わらないとさえ感じます。
結果、教育は好転しません。教員志願者は減る一方で、志願する人間の資質や専門性も担保できなくなります。要するに倍率が下がり、教員の質は悪くなります。

さて、このトピックでブログを書こうと思ったのは、以前のブログで書き記したように、
オランダでは教員に団結権(ストライキ)が認められており、
「この状況を何とかしろ!」
と叫ぶ権利を教員たちが持っているという点について触れたかったからです。(写真の通り)
自分の生活や子どもたちの教育環境の改善を求めて、声をあげても良いのです。(日本では公務員の団結権(ストライキ)は認められていません)
そしてその結果、学校から「教員が不足していることを知っていてください」と、全校生徒の保護者に発言することが認められているという点。
こういった点が日本とオランダの違いだということを知って欲しかったからです。

オランダでは、“保護者への教育”を子どもたちへの教育を通して行おうとしています。

「これは、あなたの大切な子どもの教育に関わる大切な問題です」
これらの連絡をオランダの保護者側がどう捉えているかはわかりません。
また、このような通知が学校を通じてオランダ全土で行われているかもわかりません。
しかし、学校側にそのような発言が認められているということは、少なくともオランダが保護者教育を含めて教育を見据えているからだと思うのです。

私たちは日本でワイドショーやニュースを通して教員不足を知ります。
しかし、それは学校とは関係のない立場の人間が扱うニュースであり、
「当の学校が本当に悲鳴をあげているのかどうかはわからない」
という感じでニュースを見ることができると思うのです。

日本の教職員の全員が真面目だとは言いませんが、責任感と使命感を持って必死に働いている教職員もたくさんいます。保護者に学校現場の苦悩が伝わりにくいのは、そうした彼らの頑張りによるものでもあると私は思います。
しかし、同時に社会にその現状を知ってほしいのであれば、教職員にも発言の場を与えるべきです。各学校が手厚い指導が行えない理由を保護者に説明しても良いと思うのです。
教育予算が少ないから、学校にWiFiもデバイスもない。そういった危機感を保護者に伝える術が教職員側にあっても良いと思うのです。

ちなみに、今日は娘が在籍する学年の2クラスは合同で授業が行われています。
これは、2クラスのうちの片方の教員が別の学年の授業を教えにいかなくてはいけないからです。
つまり、病休による教師の不在を、別の教職員でカバーできない事態だということです。

学校からはその旨の連絡があり、
「もし、2クラス合同の授業がご家庭において良くないと判断されるようであれば、今日の授業は家庭学習日として自宅で過ごしても構いません」
というメッセージも届きました。

ひょっとすると、これは娘の学年groep1がまだ義務教育期間ではないからかもしれません。
しかし、ここまで学校が迫ってくるところに少し驚きました。
深刻な問題であるからこそ、家庭で判断してください。ときっぱり言えるところ。

オランダの教育は学校任せではなく、保護者に判断が迫られることがしばしばあります。
学校で不十分だと思うのであれば、それは学校だけの責任ではなく、社会の責任であり、教育的判断は家庭にある。ということだと私は認識しています。

前の記事でも書きましたが、オランダでは教師がストライキをすることも少なくありません。よって、その場合仕事を休んで子どもを家でみなくてはいけなくなります。
保護者にとっての教育というのは、自分の身にふりかかり「これは困る」と感じなければ、「何とかせねば」と気がつけないことなのかもしれません。
考えてみれば、何事もそうなのかもしれませんが。

仕事を休まなければいけなくなり「これでは困る!学校何やってんだ!」ではなく、
「こういった社会を作っている責任はみんなにある」と、当事者意識を持って社会の一員として生きることが、大人に求められる責任だと感じます。

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