【オランダ】タイムカードは職場に信頼関係がない証

皆さんが勤める職場にはタイムカードがありますか?
業種や職種にもよるかもしれませんが、日本では比較的多く導入されているシステムではないでしょうか。

大阪府立学校の現場にもタイムカードが導入される

私が講師として働き始めた頃タイムカードの存在はなかったのですが、大阪府でもタイムカードが導入されるようになりました。

職員証にICチップが入っていて、それを機械にあてると出勤になります。
退職する頃にはすっかり慣れてしまった出退勤の打刻ですが、導入される時には反発をしている教職員もいたと聞いています。

一般企業の流れを受けたタイムカード導入?

恐らく、社会の流れからタイムカードを学校の教職員にも導入しようということになったのだろうとは思いますが、教育の制度改革や学校現場の在り方を語る時に「一般企業では…」と語る風潮を私はあまり好みません。

もちろん、学校を巣立っていく生徒たちは「社会」で生きていく訳なので、学校現場が社会と接続されていることはとても重要だと思います。
今では学校種間の連携(保幼小連携、小中連携、中高連携、高大連携)なども十分ではないと言われています。いずれ必ず社会へと輩出される子どもたちが生きる「社会」の変化に応じて教育を変化させる柔軟性も必要です。

しかし、社会のそれと教育現場の管理体制を同じにすることは別だと思います。「教師は世の中のことをよく知らない」と時に世間からバッシングを受けますが、教職員から言わせてもらえば「社会は学校のことをよく知らない」と思うことも山ほどあります。(これには相互努力が必要です)

ただ、そんな「売り言葉に買い言葉」のようなことを繰り返しても意味がない。と教育現場は言い返さない傾向にあるのではないでしょうか。
その結果「社会から言われ放題」の教育現場が常態化してしまっているような気がするところもあります。

公務員がタイムカードで管理されているだと!?

そんな話を行政で働く女性にしたところ、たいそう驚いていました。

「ちょっと待って。少なくとも知的労働者と呼ばれる人たちは自分の仕事に誇りを持って、その仕事に最善を尽くしているでしょう?仕事の締め切りはだいたい期限が決まっている訳だから、その時になれば結果を出さなければいけない。つまり、仕事をサボっていたらそれがバレるし、自分の評価にも繋がってしまう訳よね?そんなことは明らかなのに、どうしてその過程でタイムカードがいるの?」

全く理解できない。と彼女は続けます。

いわゆる知的労働者が時間管理されるということは、オランダでは信頼されていないのと同じよ。仕事をきちんとしてくれるという信頼がないから、ちゃんと仕事をしているのか!?と管理したくなるんでしょう?コロナ禍の学生がテストを受ける時にカンニングしていないかを確認するためのカメラじゃないんだから。笑 何故、チームや上司との間に信頼関係を築かないの?信頼があればタイムカードはいらないでしょう?

あぁ、全く違うんだ・・・と思いました。笑
もう、働き方や仕事、職場での人間関係に対する考え方が全く違うんだ。と。
もちろんこれは彼女の意見なので、オランダの総意ではありません。

ただ、彼女は一般企業に勤めている訳ではなく、いわゆる公務員なのです。
公務員がこの感覚でいられるこの国は…と考えさせられます。

先生がタイムカードで管理されているだと!?

さらにそれが学校で働く教職員にも同じだと言うとさらに驚きます。

「先生が?タイムカード?なんで!?笑」

彼女は今妊娠30週目で、このコロナ禍のためもあって、自宅から仕事をしています。

「私は家で仕事をしているけれど、その仕事内容や時間管理をしているのは私よ。仕事の期日に向けて、自分でタイムマネジメントをして仕事をする。そのために同僚と情報のアップデートがあれば自分たちで設定するし、途中経過や進度に関しても上司には進んで報告する。そこで軌道修正が必要なこともあるし、話し合いが必要になることもあるけれど、そうやってマネジメントする力も自分にかかっているの。私の仕事にはカメラもなければ時間を管理するシステムもない。だって、私はもう十分大人なんだから!笑

「ちなみに学校の先生の仕事は特殊で、時間で管理できるような仕事の内容ではないわよね?逆にそんな風に管理されている先生たちから良い教育が生まれるのかしら?目の前の子どもたちを見て、聞いて、感じて教育をするために時間の管理が必要なの?教育者はもっとゆったりしてくれていないと、子どもや生徒たちもゆったり教育を受けられないんじゃない?私だったら”もしもし?どんなけ失礼なんですか?”って言っちゃうわ。信頼してよ。って。信頼ベースに働ける環境をそもそも作ってよ。って。

信頼関係を作るには双方の努力が必要

彼女が言う「職場での信頼関係」はどのように作られるのか…それを聞いてみると、

「自分のことを話して、周りに知ってもらおうとすることね。そして相手も同じように自分のことを話してくれる。ということだと思う」

と彼女は言います。

「日本人はどうかわからないけれど、オランダ人は自分に関することを職場でもよく話すと思うわ。それは“話さなければいけない”でもないけれど、むしろ“話したい”ということだと思う。だって、自分のことを周囲の人がよく知ってくれていたら、困った時に助けてもらえるでしょう?結局それは自分のためになるのよ。だから、自分をよく知ってもらえるようにコミュニケーションを取るの。そして、相手のことを知っていたら、相手が困った時にも助けてあげられるじゃない。そうやって職場で信頼を築いていくことが、結局自分にとっても、他人にとっても働きやすさに繋がるのだと私は思う。

彼女に、「あなたの職場の上司はどう?」と聞いてみると、

「人間的に好きとかそういうのはないけれど。笑 でも、仕事をする上では良い上司よ。良い関係だと思う。良い関係になるように互いに努力してきたという意味でね。」

良い上司だと思う理由

「例えば私は今妊娠中でしょ?でも仕事もしているからプロジェクトも抱えている。それで、ホルモンのせいでミーティングをすっぽかしちゃうこともあるわけ。笑 しんどくて1時間くらい横にならないといけないこともある。それでも仕事の締め切りのためには何とかしようとするし、まぁ、何とかならないこともある。それでも理解してくれるわ。良い上司ね。例えば、締め切りを守る前提として、私が勤務時間中に仕事に行き詰まったり、身体がしんどくて1時間くらい散歩にいくとするじゃない?そしたらきっと彼はこう言うと思う。”自分の管理をして偉いね”って。”仕事の生産性をあげるために、自分の体調やコンディションを整えることも必要だよ”って。

「でも、彼が私にそう言ってくれるのは、私たちがここまで信頼関係を築いてきたからね。私も自分を知ってもらうために努力をしてきたと思うし、彼も私を知ろうとしてくれたと思う。仕事をする上で必要な信頼関係を築くことを適当にせず、わざわざそこに時間を費やしてきたのだと思う。それがなければチームでパフォーマンスの良い仕事はできない訳だから

やっぱりタイムカードはいらない

彼女は「職場で良い関係があればタイムカードはいらない」と言います。

廊下ですれ違った別の部署の同僚とリラックスして話をすることも、
ちょっとしたブレイクにコーヒーマシンの前で10分〜15分話をすることも、訪問先の団体の人と話が盛り上がって話し込むことも、
上司やチームで雑談をすることも、

全て信頼関係を築くために必要な行為だと彼女は言います。
そして、そういったことが日常にある中で、自分の仕事に責任を持ち、期日に間に合うように業務マネジメントをする。
それもまた、信頼関係に繋がる。そして、良い仕事に繋がる。

タイムカードで管理されるべき仕事も世の中にはきっとあるだろうけれど、
そうではない仕事にタイムカードは必要ない。
彼女はそう言い切っていました。

オランダで公務員として働く彼女から学んだ「信頼関係をベース」にした働き方。
結局、良い仕事は管理体質からは生まれない。
本質的な部分を見直すためには、余白を受け入れる覚悟が必要だ。

そう学んだ気がします。

この記事を書いたボーダレスライター に
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三島 菜央

Nao Mishima

  • 居住国 : オランダ
  • 居住都市 : ハーグ
  • 居住年数 : 5年
  • 子ども年齢 : 8歳
  • 教育環境 : 現地公立小学校

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