【アメリカ】驚くべき速さでコロナに対応したアメリカの教育機関

すでに日本でも報道されているように、ここアメリカでも新型コロナウィルスの感染者が増え続けています。
ニューヨークでは医療崩壊が起こり、また、連日報道されるコロナ関連の悲惨なニュースは人々を恐怖と不安に陥れ、おそらく全世界の人々が先行き不安な毎日を過ごしていることでしょう。

ここノースカロライナ州は、5月19日の時点で感染確認者数は19,239人、そして死者数は693人になりました。
日本全土での同時期の感染確認者数は16,395人、死者数は773人とのことなので、総人口約975万人のノースカロライナ州は、総人口1億2,590万人の日本と比較しても、かなり危険で厳しい状況だということが分かります。

そんなノースカロライナ州ももちろんのこと、3月10日に非常事態宣言、3月30日午後5時より自宅待機命令が発令されました。
私たちが渡米して以来、決して見たことのなかったアメリカ人のマスク姿。
ほとんどの住民が家から出ていませんが、必要とあって外出している人は、ほぼ全員がマスクをしています。
それに、近所の人と道端ですれ違う時も、お互い笑顔で「Hi!」と挨拶を交わすことはあっても、どちらか一方が3~4歩左右に逸れて相手が通り過ぎるのを待ちます。

もちろん、健康維持のためのジョギングや、生活に必要不可欠な食料品などの調達のためや通院の外出は許されてはいるものの、多くのお店は完全にClose、レストランなどの外食チェーンもテイクアウトのみです。
そして、ある食料品スーパーでは、朝8時~9時にシニアタイムといって高齢者の人しか入店出来ない時間帯を設けたり、一度に入店出来る客の数を制限するために、入り口の外に6フィート空けて列を作って並んでもらうよう誘導したりと感染を防ぐ対策をしています。
さらに、買い物をする時に使うカートも使用後は1台1台消毒、商品の支払いは現金不可でクレジットカードのみと決められているお店、各家庭からのウィルス持ち込みを防ぐためにエコバッグの持ち込みは禁止、というお店も沢山あり、危機感の強さがうかがえますね。

このように政府の指示を守り、自粛と除菌を徹底する様子を目の当たりにし、「自由な国アメリカ!アメリカ人は常にマイペースで個人主義な人が多い!」と勝手に思い込んでいた真面目な(?)日本人である私は、逆に驚いています。
日本では自粛自粛と言いながらも街を出歩いたり、学校が休校になり行き場を失った子どもたちで公演が溢れかえったりしている様子も見受けられましたが、粛々と自宅待機生活を送るアメリカの人々にとってそんな日本の光景は、驚きとともに自身の目を疑ったに違いありません。

まあ、コロナの自粛生活に関しては、人それぞれで意見が分かれると思うのですが(笑)
いかがでしょうか、アメリカのノースカロライナ州の私たちが住んでいる地域の様子はこんな感じです。

では、教育機関はどんな様子か。

今、私が勤務している大学は、元々3月9日から一週間Spring Break(春休み)でした。その春休みがコロナの感染拡大に備えて、もう一週間緊急で延長され、結局二週間の春休みとなりましたが、私が最も驚いたのはその間の大学側の対応でした。
「春休み後、3月23日からの授業は一斉にRemoteになります」と連絡があったのは、その一週間前の3月16日ごろでした。

ピアニストとしての私の仕事は、コレペティトールといって、声楽科の学生に歌詞や音程、正しいリズム、そして音楽的な表現などをマンツーマンでコーチングをすることなのですが、自分が担当している学生へのコーチングも3月23日からオンラインでしなければならなくなりました。
そのために、パソコン環境を整えたり、ビデオチャットツールをインストールしたりして準備することはもちろん、ピアノが自宅に無い学生でも歌の練習が出来るように、ピアノ伴奏のパートだけを録音して全ての担当学生にメールで送ること、また、学期末の実技試験やリサイタルもオンラインで行うため、それらの伴奏も録音して送ること…短期間で実に沢山の準備に追われました。
全部で100曲近くある楽曲をひたすら練習&録音し続けたことは、今思い出しても手が痙攣しそうです…苦笑

それはさておき、驚くべきところは、ものの一週間で全ての大学の授業がオンラインに移行したことです!そこに、大学側の迷いは一切見受けられず、一瞬にして切り替わった感覚です。

4月上旬に、実際に開催された
オンラインリサイタルの様子

学生にとって、リサイタルをすることは単位取得のために必須なのですが、事前に録画した伴奏動画に合わせて演奏する様子が映っているのがお分かりでしょうか。

日本は、アメリカよりも若干早く感染拡大が認められたにも関わらず、最近になってようやくオンライン授業の必要性がどうだかとか、導入をし始めた、という大学が多いですよね。
こちらは、小学校でさえも、3月下旬からオンラインでの授業、ホームスクールが既に始まっています。
私は決して日本を批判したいわけではないのですが、アメリカの教育機関のオンライン授業に対する素早い対応と移行は、評価すべきたと思いました。

このように、アメリカの各学校で即座にオンライン対応が出来た理由の一つは、子どもから大人まで、普段からデジタルデバイスに慣れていることが挙げられると思います。
少なくとも私が勤務している大学の大学生は、おそらくほぼ全員がノート型パソコンを所有し、毎日キャンパスに持ってきています。そして、授業中のノート取り(なんか、この言い方がもう古い…!?)は、そのマイパソコンへカタカタ打っていく。もちろん、課題の提出や教員からの指示も電子メールが基本です。

そうは言っても、芸術分野である音楽学部は、演奏するという点において人間的でかつアナログ的な要素を沢山含んでいるので、デジタル化なんて…と思っていた私は、認識が甘かったですね(笑)
伴奏ピアニストの多くが“紙”の楽譜ではなくiPadの画面の楽譜を見て伴奏していることや、楽譜はもちろん、実技試験や外部の音楽コンクールなどのタイムスケジュールなども全て電子メールで送られてくること、そして実技を教える教授陣も、自分のパソコンに取り込んである楽譜を使って学生のレッスンをしていること…などなど、これまた驚きと発見の日々!

私はこれまで、“紙”の楽譜を貫き通してきたピアニストの一人なのですが、こちらのピアニストたちに影響されて(残念ながら影響されやすい)、試しにiPadで伴奏をしてみたら、これが素晴らしいのです!
専用のページ・ターナー(足で踏んで譜めくりが出来る代物)を使えば、楽譜をめくる時のあの「ペラペラっ」という非音楽的な騒音を生むこともありませんし、誰か違う人に譜めくりをお願いした時に、自分のめくって欲しいタイミングでないところでめくられたらものすごく動揺してしまう、といったこともありません!私にとっては世紀の大発見レベルでした(笑)

また、オンライン授業に素早く移行出来たもう一つの理由、それは国民性でしょう。
声楽のレッスンをオンラインですることは、どれだけ通信状況が良かったとしても、歌声が途切れたり、歌詞がこちらへ明確に飛んでこなかったりと、普段の対面レッスンでは何でもないことが一気に不自由になります。その度に演奏を止めたり、もういちど歌い直してみてもらったり。レッスンする側もされる側も、ノンストレスだとは言い切れません。
オンラインのレッスンは、不自由なことも多いです。しかしながら、そんな細かいことを気にしたり、文句を言ったりすることよりも、この状況下でも今できることをして、教育の機会を止めないようにと前向きな姿勢で対応しているアメリカ人。これこそが、明るいアメリカ人の気性なのかなと思いました。

キャンパス内に咲いていた桜の花。

この写真を撮影したのは今年の2月3日。まだこちらアメリカではコロナが他人事のように捉えられていた時期でした。
少し肌寒い風が吹く中にも春の息吹を確かに感じ、そこら中にいる可愛いリスを眺めながら、息子のお迎えのためにやや急ぎ気味でキャンパス内を歩いていたときの写真です。とても綺麗でした。
今思えばコロナという大嵐の来る直前の静けさだったのですね。

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