【オランダ】先生たちが孤独にならない仕組みを日本の学校に
先日「先生の学校」というプラットフォームで、そこに有料会員として登録されている方々に向けてオランダの教育について話をする機会がありました。
“三原菜央さん”という、何と私と一字違いの代表の方が連絡をくださったことで、この企画が実現しました。
もし「先生の学校」に興味がある方は、是非HPを覗いてみてください。
ほぼボランティアベースで作られているこのプラットフォームでは、教育に関わる人でもそうでなくても、日本の教育をもっと良くするためのヒントを得られるコンテンツを見つけることができるはずです。
大事な日なのに、ネットが3回…いや4回も切れた!!
最近Ziggoの回線品質に不平不満を漏らしている方々が多くいらっしゃると聞きますが、我が家も決して例外ではなく…
120名以上の申し込みをいただいたこの企画の登壇者である私の家のネット回線が度々切れ、ご参加いただいた方々にご迷惑をおかけしました…
後半はなんとかネットの状態も安定してお話をすることができたのですが、最初に「質問はコメント欄にあげてください」なんて言いながら、「そのコメントを開くとまた画面がフリーズしてしまうのでは?!」という一抹どころか何抹?の不安が頭をよぎり、48件もいただいていたコメントにお応えすることができず。爆
最後にモデレーター役の岩田さんの力を借り、何とかいただいていた質問に対して少しだけ回答することができたような感じとなってしまいました…
元教育者の視点で公教育の紹介を
娘は特別なカリキュラムの学校ではなく、ごくごく一般的な小学校に通っていることもあり、日本の一般的な公立の小学校と異なるところを1日のスケジュールに沿って紹介してみたり、それ以前に多種多様な学校が存在するオランダにある教育制度などについて触れました。
また、ユニセフレポートから見るオランダの特異な点、いわゆる子どもの幸福度が高いということは何を表しているのか…住んでみて感じたことについても紹介させてもらいました。
オランダの教育について何を語っても出てくるのは予算です。
これはOECDのデータを見ても明らかで、日本は他国に比べて教育予算に割くことが出来ていません。この予算の配分がどれだけ大きなことか…ひょっとすると学校現場にいなければ気が付かないことなのではないかと思います。
何故かというと、生徒を通して直接保護者が気が付く部分には予算が割かれ、そうではない部分は教職員が試行錯誤する中で支えられているからです。
つまり、教職員は時に自腹を切って教育に必要な備品を購入したりすることで、予算で賄われない生徒たちの教育環境を守ろうとしているのです。
これが、「日本の教育は教職員のボランティア精神によって支えら得ている」と言われる理由だと思っています。
オランダの子どもの幸福度は決して教育の良さではない
そして、最も参加者に伝えたかったのは、オランダの子どもたちの幸福度は決して教育が良いという結果によって導かれていない。ということでした。
これには様々な議論がありますが、私自身、オランダの公教育自体は世界的に誇れる水準のものだと感じていません。例えば、オランダに暮らす4人に1人は小学校到達レベルの読み書きが不十分であるという報告があります。
これはもちろん移民が多い国だからこそ生まれる問題点であろうとは思いますが、移民を受け入れると決めた以上、そこに費やされるべき予算も考慮されなければいけない問題であるとも感じます。
また、オランダでは学区制がないため、小学校入学を前に子どもが通う学校を選択する自由が与えられますが、それは同時に学校間のオープンな競争、つまり魅力づくりに繋がるため、そもそも学校を目的に住む地域を選ぶことに繋がったり、地域格差という問題もでてきます。
そういった点を考慮すると「どの小学校へ行っても同じ質の教育が受けられる」とされるフィンランドなどの方が、公教育という意味では整っているのではないかと思う部分もあります。
では、一体子どもたちの幸福度は何の上に成り立っているのか?
教育だけを見たとき、オランダのそれが抜群に良い訳ではないとするならば、一体何がオランダの子どもたちの幸福度を支えているのか。
それはまさに「大人の幸福度」だということが見えてきます。
これまでにも何度か触れてきましたが、オランダでは大人の幸福度も北欧諸国に匹敵するほど高いということが報告されています。
「あなたにとって”幸福”とは何ですか?」
と私たちが聞かれたら、一体何と答えるでしょうか。
子どもたちの幸福度は大人の幸福度によって支えられている…それは紛れもない事実だとするならば、子どもの幸福度を考える時、大人の幸福度がどのようにあるかということも考えなければなりません。
そういったことを踏まえ、ユニセフレポートでは社会に生きる大人たちがどのような状況の中で生きているかということについても多角的、多面的に分析しています。
そしてその結果、オランダの大人たちは幸福であり、その幸福感が直接子どもたちの幸福度につながっているということが見えてくるのです。
日本社会に生きる大人たちは幸福か?
ユニセフレポートを見ると、日本の子どもたちは大きな矛盾の中にいることが良くわかります。
精神的幸福度、いわゆる生活満足度は低いにも関わらず、身体的幸福度、いわゆる死に直結するような状況下で生きることなく、非常に安全で、肥満度も低く、健康的に見ても豊かな国に暮らしているということがわかるのです。
しかし、大人の働き方や家族との時間がどれだけ確保されているかを見れば、いかに日本の大人たちが多忙の中で生き、子どもたちと接する時間が限られているかということが見ることができます。
それはつまり、大人たちが「忙しさ」の中で自分を見失い、家族や子どもがいる場合、家族のことを考えられるほどの余裕さえないということなのかもしれません。そしてその状況は決して「幸せ」と言える状況ではない…
日本にいる多くの人が自覚しているにせよ、そうでないにせよ、オランダから見た時、日本の人々のライフスタイルはお世辞にも「幸せ」と言える状況ではないということが見えてきます。
その影響は学校の先生にも
そして、その影響を子どもたちに与えてしまう人々が、学校で子どもたちの教育に携わる教職員でもあります。
「仕事を選び直せるとしたら、また教職を選びますか?」
という質問に対して、オランダでは80%を超えているのに対し、日本は50%程度にとどまっています。
つまり、子どもに接する教職員が、子どもと接する仕事に疲弊しているのです。もちろん、目の前の子どもたちに嘘はつけない…それでも、日本の教育現場で働く教職員たちは、子どもたちをがっかりさせまいと、全力を尽くしながらも、毎日仮面をつけて懸命に働いているのではないでしょうか。
「仲間がいない。でも勇気をもらった。明日から頑張ります」
講演を終えて、予想以上の教職員の方々や、これから教師を目指す学生から連絡をいただきました。その中で聞こえてくるのは、懸命に現場で試行錯誤を繰り返している教職員や学生たちが孤独と戦っているという声です。
「学校で教育を良くしていこうという議論ができる時間がない」
「自分だけがこのままではいけないと感じている。でも仲間がいない」
「忙殺される日々の中で、自分を失いかけている。辛い」
この気持ちが痛いほどわかる私にとって、この言葉たちは胸がえぐられるような気持ちになります。
私たちは何かを乗り越えるとき、仲間が必要です。
一緒にビジョンを共有し、夢を語り、理想を追い求める。そんな時に必要なのは、隣で励まし合える仲間の存在ではないでしょうか。
日本の学校で危機感を抱いている教職員の方々には、往々として仲間がいません。仮に仲間がいたとしても、それを見つけるだけの余裕がないのです。
それでも、彼らは言います。
「今日は勇気をもらいました。また、明日からまたがんばります」
こんなに真面目で情熱に満ちた先生たちを、日本はこの瞬間も失いそうになっています。公立校教員の精神疾患休職が過去最多 業務の増加、複雑化が一因か令和元年度に鬱などの精神疾患で休職した公立学校の教員数が5478人に上り、過去最多になったことが22日、文部科学省が公表しwww.sankei.com
私は今、教育に携わる方々、行政の方々も含め、インタビューを繰り返し、何が日本のヒントになるかを探し続けています。
土壌が違うオランダと日本でも、きっと共通して活かせる部分はきっとある。そう信じて、少しでも日本の先生たちが孤独から脱し、本当に子どもたちの未来を想う人たちの熱意が横に繋がることができるように。
日本の教育は”もっと”良くなる。
そう信じる人たちと前を見て、時に何かを乗り越えながら、進んでいきたい。改めてそう感じました。
先生たちが孤独にならない「しくみ」を日本の教育に。
子どもたちの幸せは大人たちの幸せにかかっているのです。
この記事を書いたボーダレスライター に
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税所 裕香子
Yukako Saisho
- 居住国 : ドイツ
- 居住都市 : ザールランド
- 居住年数 : 1年
- 子ども年齢 : 6歳、3歳、1歳
- 教育環境 : ワルドルフキンダーガルデン