【イングランド/ノッティンガム】マンチェスター大学修士課程修了 Naoさんインタビュー② ~学ぶことの意味とは?~
イギリスからこんにちは、Ryokoです。
前回から、昨年イギリスのマンチェスター大学で人道主義・紛争対応学(Humanitarianism and Conflict Response)の修士課程を終えたNaoさんの、ドイツ、インド、スウェーデンでの学びを含むこれまでの経験と、価値観や信念をインタビューし、3回に分けてお届けしています。
今回はスウェーデンの交換留学やマンチェスター大学で学んだ経験をお聞きします。
<プロフィール>
芝軒 奈央/ Nao Shibanoki
1999年兵庫県生まれ。マンチェスター大学大学院 人道主義・紛争対応学修了。女性のエンパワーメントを目指すコミュニティ HerStory Japanを運営。「すべての生命が主体的に人生を最大化できる、公正で包括的な世界の実現」を理念に掲げる。
学生時代の主な活動はスウェーデン交換留学、ドイツへの日本青年大使、日中韓ユースサミット日本代表、東日本大震災復興支援プロジェクト主宰、チアダンス世界大会入賞・インストラクター活動など。今春からは日本マイクロソフト(株)にて、デジタルの力を活用した日本の社会変革を目指す。
インタビュー①はこちら
<大学時代>
スウェーデンへの交換留学で「人と同じ」を演じることをやめた
── Naoさんは日本の大学で国際学部に進学されていますが、交換留学したスウェーデンの大学での勉強にすんなりと馴染めましたか?
全然そんなことないです、むしろすごく苦労しました。それまで勉強は受験のため、成績のために丸暗記して学ぶという感覚があったので、議論中心の学びにとても戸惑いました。当時英語が十分に分からなかった上に批判的思考力もなく、自分の意見が何も言えなくて何度も悔しい思いをしました。特に紛争や難民問題を身近に感じて育ったコースメイトのとの人道問題への認識力の差は大きく感じました。
── たしかに、日本と海外では教育スタイルが異なりますよね。そんな中で、どのようにして壁を乗り越えたのですか?
必死に予習をして授業で何かを発言しようとする意欲を見せると、拙い語彙力や意見でもコースメイトが耳を傾けて受け入れてくれる、そんな心理的安全性が高い環境のおかげで次第に慣れていきました。
── 人種、年代、性別の違うコミュニティならではの気遣いなのでしょうか。
そうだと思います。移民や難民としてスウェーデンに辿り着き、語学支援や職業訓練を受けてようやく大学に辿り着いた人、赤ちゃんを抱きながら授業に参加するお母さんなど、さまざまな人がいました。マイノリティとして生きる苦労を知っている人が多いゆえの、お互いを思いやって受け入れようとする空気感を感じました。
また容姿や肩書きなどの外的要素ではなく、私がどういう考えをしていて、どういう人なのかというところに興味を持って接してもらえました。それまで私は人と違うことを考えたり、大半の同級生とは違う行動をしたりすることに不安を感じていました。でもスウェーデンでありのままの私を受け入れてもらえたことで、堂々と自分らしく生きることができるようになりました。
<大学院時代>
頭も心も未熟なまま社会人になりたくなかった
── 自分自身について考えてみても、20代のうちのいろんな海外留学や、チャレンジをしておくことにとても賛成です。Naoさんはなぜ20代での大学院進学を考えたのですか?
学部生のときに専門性を活かして働く社会人から刺激を受けてきたため、私も頭と心を十分に成長させてから社会に出たいという思いがありました。将来海外で働くことを視野に入れていたり交換留学時に院生の友人を多く持ったこともあり、海外大学院のタフな環境に身を置いて挑戦したいと決めていました。
── 人道主義・紛争対応学の専攻を選んだ理由を教えてください。
昔から共感力が高く、人の心に敏感だけでなく、動物搾取や自然環境を大切にしない行動、物が大切に扱われない場面に直面する度に悲しみを覚えていました。そしてこんなにも傷ついている存在がたくさんいるのに、なぜみんな見えないふりや知らないふりをしてやり過ごすのだろう、なぜこの世の中のあらゆる暴力はなくならないのだろうと疑問に思っていたんです。
そこであらゆる命がもっと尊厳をもって扱われるための取り組みを研究したいと思い、医学から国際関係学などを融合させた学際的な切り口を持つこの専攻に至りました。
とにかく懸命に生き延びた、マンチェスターでの1年間
── イギリスの修士課程は1年間に詰め込まれていて大変ですよね。実際のところ、どのような生活を送っていたのですか?
海外大学院での学びはとても厳しいという認識はありましたが、実際は想像以上でした。特に私の場合、言語の壁や人道援助現場での経験の無さを埋めることに苦労しました。
朝から晩まで全ての時間を勉強に充て、深夜から早朝にかけて就活をしていました。睡眠不足とイギリスの気候による心身の不調が続いた結果、摂食障害とうつを同時に経験しました。
課題の締め切りが迫っても体が動かず、机に向かえないことが一番苦しかったです。仕方なく夜中に大学へ行き、強制的に自分を朝まで帰れない状況に追い込んでやり遂げるようにしていました。全てを終えた今は「卒業した」というより「生き延びた」という感覚です(笑)。
── そんなに辛い状況で、途中で諦めようとは思わなかったのですか?
こんなに苦しむくらいならもう日本に帰ろうと、帰国便を探していた時期もありました(笑)。もし学位取得そのものを大学院の第一目的だと捉えていたら、やり遂げられなかったと思います。
先ほど述べたとおり、私は大学院に人生の問いの答えを探しに来ていたわけなので、それが見つかるまでは這ってでもいいからとにかくやりきるんだという気持ちでした。
── Naoさんにとって、「学ぶ」ということはどのような意味を持ちますか?
私は知識を「生きた人生のインスピレーション」だと捉えています。そして知識は夢の大きさや人生の豊かさに影響するからこそ、学びは「自由への解放作業」だと認識しています。人生や世界の本質について他人から教えられるだけではなく、自分で探求してこそ「自分の人生を生きる」ことを可能にすると信じています。
── 今は無意識に学校で勉強している、または勉強させられていると思っている子供達が、学ぶことについて徐々に自分の意見を持てるようになっていくと良いですね。次の最終回はNaoさんが持つビジョンとメッセージをお伝えします。
この記事を書いたボーダレスライター に
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秋吉 良子
Ryoko Akiyoshi
- 居住国 : イングランド
- 居住都市 : ノッティンガム
- 居住年数 : 1年
- 子ども年齢 : 12歳
- 教育環境 : 現地私立中学校