【日本】「過程の記録」である成績表

世間では、ちらほらと桜の開花の様子が話題になってきているようです。
京都では、まだ冷たい風が吹く日もありながら、暖かさを感じる日もあり、三寒四温とは上手く言ったもんだなあと誰に対してかわからない賛辞を思いながら、大好きな桜の花が咲き誇る日にワクワクし始めたこの頃です。

桜が芽吹くと、外の世界が一気に華やかになると共に、人々の気持ちも心地よく上がる。
桜を見ると、あたたかでうららかな春がきたという実感が湧くからでしょうか。これは、経験上、桜の咲く情景を思い浮かべることができる日本人ならでは?

いずれにしても、桜を愛でるときと温泉に浸るときは、ああ日本文化で育ってよかったなあ〜とベタなことを思うのです。

久しぶりに温泉に浸かりたいなあ〜〜〜〜(切実)と思いながら、
今回は、娘の通う国際バカロレア(IB)のPYP認定校の一条校における、いわゆる“成績表”について。

「通知」なのか「記録」なのか

一般的に「通知表」と言われているような成績表は、娘の学校では「学びの記録」と名付けられています。

人によっては、どっちでもいいことかもしれませんが、「成績を通知する表」なのか、「子の学びを記録するもの」なのかの違いは、受け取り側というより作成側のスタンスとして大きな違いだなと私個人としては感じます。

保護者に子どもの成績を通知するものを作るのと、子どもがどんなことをどれだけ学んだのかを記録するものを作るのでは、中身も作り方も変わってくると思うのです。

子ども本人としても、親としても、受け取って見てみたい、成長として残しておきたいと思うのは、後者の方である人が多いのではないでしょうか。

この成績表の名前の付け方に、そのような学校側の姿勢を感じます。
もちろんこの「通知」と「記録」のスタンスの違いは、公立の小学校とIBカリキュラムにおける評価観点の違いから生まれているものだと思います。

仕様はA4レポート形式

「学びの記録」という成績表をもらってくるのは、学期の最終日(春学期、秋学期、冬学期の三学期制)です。
子どもたち自身が、先生から受け取って帰ってくるあたりは、日本の公立小学校と変わりないかと。

ただ、封をしてある茶封筒に入れられてあります。

私が小学生の時の通知表のもらい方は、教室で、先生から一人ずつ名前を呼ばれて前に出て、通知表そのものを手渡しで受け取り、すぐにその場で中身を確認できるというものでしたし、数年前の息子たちが小学生(公立小学校)だった時も、そのような受け渡し方でした。(あれ?茶封筒には入ってたかな?でも封はしてなかったはずです。)

茶封筒に入っていて封をしてある意味を学校側から説明されたことはありませんが、成績表自体が、ぺら一枚のA3用紙を半分に折ってあるようなものではなく(息子たちはそうだった)、A4のレポート用紙10枚以上が綴じてある仕様であること、自身の成長の記録として大切にするべきものであること、またその場で自分の成績や友達の成績を見たりすることによる無意味な比較が生む喜びや落ち込みを無くすため、という意図があるのではないかと推測しています。(深読みしすぎ?)

何をみてどう評価するのか

さて、問題は、A4レポート用紙10枚以上に渡って、何が記録されているのか。

「学びの記録」内に記載されている“評価の見方”の欄から抜粋すると、

この「学びの記録」は、お子様が今学期にどのように学んできたかという学びの過程と、次の学びに向けてどのような成長を見せているのかという進行状況をお伝えすることを目的としています。
このため、各教科や学年の小学校学習指導要領に合う形で作成された今学期の目標ごとに、その到達度合いから判断された評価と、教科ごとにIBを学ぶ学習者像の観点からの担当者によるコメントを載せています。


ここから分かるように、この成績表に記載されているのは、「結果」ではなく、「過程と進行状況」です。
その学期における成績結果を伝える通知表と、その学期の学びの過程と成長の進行状況の記録とでは、記載内容は全く異なるものとなるのです。

誤解のないように加えておくと、「学びの記録」にも、段階評価の記載はあります。学習目標ごとに、五段階評価(E、M+、M、A、B)で達成度合いを表示しています。
その評価のつく項目は、かなり細かく分かれていて、Mathの学習においてどのようなことが達成できていてどのようなことが達成できていないかなど、一目瞭然。

ただ、その評価は、「単元学習の最終的な到達結果」ではなく、「まだまだ理解を深める見込みありでの、あくまで今現在の達成具合」ということです。

着目したいのは、他の学校との違いとして、この達成度合いは、よくあるテストで測っているものではない、ということです。
各教科における単元の終わりごとに行うことが多い、いわゆるペーパーテストは、娘の学校にはありません。(覚えているかを確認する漢字テストは時々あるようです。)
なので、ドラえもんののび太とママがよくやる「テスト何点だったの?」「(恐る恐る)…0点」「あなたって子はもうっっ(お説教)」のようなやり取りを、私たち親子はしたことがありません。(え?テストがあっても普通はしないって?)

国際バカロレア(IB)のカリキュラムは以前の記事にも記載した通り、教科学習ではなく、教科横断型の探求学習がメインの学び方です。
探求学習においては、その子が学んだものをペーパーテストなんてものでは測ることができません。
テストで測っていないということは、先生方は日々一人一人の学びの過程をきちんと観察して、学びの進度や定着度をしっかりと把握しなければならないということです。

そのあたりの違いも、IBカリキュラム校での成績表は「学習の結果」の通知ではなく、「学びの過程と成長の進行状況(現在の達成具合)」の記録になるという要因の1つです。

LEARNE PROFILEからの視点

そして何より、私が国際バカロレア(IB)カリキュラムの最大の良さだと考えているのが、LEARNER PROFILE(詳しくは以前の記事へ)を基盤としている子どもたちの成長の捉え方です。

「学びの記録」の中にある各担当の先生方のコメントでは、LEARNER PROFILEを通して伺える子どもの成長を伝えてくれています。
また、「LEARNER PROFILEを通して見た学校生活の様子」というページにおいて、LEARNER PROFILEの10項目のどの項目により当てはまる生活をしていたか、またそれに対してのコメントが記載してあります。

これらの良さは、とても簡単に言うと、例えば先生が子どもを、「この子は算数の掛け算が得意だけど、漢字を覚えるのが苦手な子だ」という視点で捉えることと、「この子はInquirersだけど、もう少し0pen-mindを育ててあげたいな」という視点で捉えることでは、その子への評価の仕方や、はたまた接する態度も異なるはずで、その子の成長に大きく影響が現れると思うのです。

たかが成績表、されど成績表。
人生において、学校という狭い世界でのただの評価だとしてしまえば、それまでです。

けれど、評価の仕方次第で、全ての子どもが持つ可能性を伸ばすのか止めるのか、子どもの成長の大きな局面に関わる大切な物の1つとしても、捉えられるのではないかなあと思います。

さて、冬学期の終わりも近づき、娘がもうすぐ「学びの記録」を持って帰ってくる時期です。
一緒に中身を見て、今学期も頑張ったね、楽しんだね、成長したね!と、たくさん笑い合うのが楽しみだなあ。

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