【オランダ】ドアノブにかけられていたクッキー

先日、家族で公園へ出かけて帰ってきた時のこと。
家の前に着くと、クッキーの絵が描かれた紙袋がドアノブに吊り下げられていました。

よく見ると、うちだけではなくお隣さんのたち家のドアノブにも。

「何かの宣伝かな?」
と思い家へ持って入り、添えられていた手紙を読むことにしました。

添えられていた手紙

その手紙の表面にはオランダ語で書かれた文字が。
ただ、裏面を見てみると英語も書かれていたのでした。

“Hello, my name is Jeanne, I am 11 years old and as it has been a very rough year for all of us, I have decided to spread some cheer by delivering homemade cookies to the homes in my neighborhood. I hope this will inspire you all to spread happiness and cheer all around the globe.”
「こんにちは。私はJeanne、11歳です。私たちにとって、この1年はとても苦しい年でした。そこで私は、自家製のクッキーを近所の家庭に配ることで、元気を分けたいと思いました。このクッキーが皆さんにとって、世界中に幸せや励ましを広げるきっかけになれば嬉しいです」

このクッキーを配ってくれたのは、近所に住むJeanneという11歳の少女だということがわかったのでした。

丁寧にアレルギー表示まで

メッセージの下に”They are sadly NOT…”と書かれていたのは、アレルギーに関すること。

They are sadly NOT…
*lactose intolerant
*gluten free
*Vegan
*sugar free
*nut free

ラクトースフリーやグルテンフリー、ヴィーガン向けではないことや、
砂糖やナッツが含まれていることも書かれていました。

11歳の少女が感じるコロナへの不安

この少女がこの行動に出ようと思ったのはきっと、この先の見えない新型コロナウイルスへの不安からでしょう。
オランダでは、感染者の4分の3がイギリス変異株による感染であるとも報じられています。

約1ヶ月半のロックダウンを経て、2/8(月)から小学校の再開は確定しましたが、中学校や高等学校、学童などは再開の目処が立っていません。

学校へ行けないもどかしさや、人々の不安な表情、彼女が知っているオランダという国がどんどん変わっていく…そんな不安を少しでも和らげたいと思ってこういった行動に出たのかもしれません。

「こんな時にクッキーなんか配るなよ…」となるのか

今回の小さなプレゼント…もし日本で、皆さんの自宅のドアノブに吊り下げられているものだったとしたら。どんな感想を持つでしょうか。

「こんな時に”自家製”のクッキーなんて配らなくても…」
「誰が作ったかわからないクッキーなんて不安で食べられない」
「せめて配るのなら、袋詰めされたお菓子にしたら良いのに」

ひょっとすると、そんな風に感じる人もいるかもしれません。
もちろんこのクッキーを受け取った世帯の中にもそんな風に感じる家庭があるかもしれません。

ただ、オランダという国はこういった「子どもの行動」に比較的寛容な国だからこそ、子どもたちがこういった行動に出ることが出来るのかもしれない。と思いました。

「誰かを励ましたい」

という純粋な子どもの気持ちを汲み取れるだけの寛容さがこの国には少なからず残されている気がしているのです。

子どもたち3人が私の家を訪れた時のこと

オランダに移住して間もない頃、3人の見知らぬ子どもたちが私の家を訪ねてきたことがありました。
3人の真ん中に立っていた少女は、手にiPadを持っていて、ドアを開けた私に、”Hallo!”とオランダ語で話しかけてきたのです。

その後、子どもたちが順番にオランダ語で何やら説明を始めたのですが、
何を言っているのかさっぱりわかりませんでした。
iPadを見せながら、画面をスクロールして、私に何かの商品をいくつか見せてくれていました。

“Do you speak English?”
と、私が話の合間に聞くと、子どもたちは少し困惑した表情に。
そこから、つたない英語に切り替えてくれたのですが、オランダ語まじりで、全容がつかめませんでした。

iPadをよく見せてもらうと、そこにはいくつかの商品があり、これを買ってくれないか。ということだということがわかってきました。
しかも、よく見てみると、商品を買ったお金は支援学校に通う子どもたちのために使われるということだったのです。

そこで私は承諾し、デビットカードの番号を入力していくつかの商品を購入することにしました。拙いオランダ語でどこの学校かと尋ねると、娘が通う予定の小学校の子どもたちだということがわかったのでした。

子どもたちが、「子どもたちだけ」で行動するという経験

私はその時、学校の教育活動の一貫として、子どもたちが自らiPadを手に、一軒一軒の家を訪問し、
「誰かの助けになるために、見知らぬ人に何かを買ってもらう」
という経験をしていることに感銘を受けました。

そして、そういった教育活動が学校の外で行われ、地域社会の人々が彼らの行動に対して「協力」という手を差し伸べる社会の在り方に感動しました。

もちろん快く購入する家庭もあれば、拒絶する家庭もあるでしょう。
しかし、それも小学生にとっては意味のある経験だと思うのです。

近隣の家庭を訪れてインタビューをするようなことは、ひょっとするとどこの国でもあるのかもしれません。
一方で「お金を支払ってもらう」というのはとてもハードルが高いものだと思います。それを小学生に経験させる…これは金融教育の一貫ともとれるかもしれません。

アイデアを考え、クッキーを焼き、配り歩いたJeanneに賞賛を

残念ながら私はこのJeanneという少女がどんな少女なのかを知りません。
しかし、クッキーを美味しくいただきながら、心の中で彼女への賞賛を送りました。
人々の心が落ち込み、どんよりと暗い空気が漂うオランダの冬。
11歳のJeanneが「何かをしたい」と思ったその心意気に賞賛を。

このクッキーを受け取った多くの人たちが、子どもの勇気とアイデアを暖かく受け入れてくれていますように。
そして、このクッキーが一人でも多くの人々の心を癒し、幸せのエールをつなぐきっかけになっていることを祈ります。

この記事を書いたボーダレスライター に
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三島 菜央

Nao Mishima

  • 居住国 : オランダ
  • 居住都市 : バーグ
  • 居住年数 : 2年
  • 子ども年齢 : 4歳
  • 教育環境 : 現地公立小学校

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